大神林にて 打ち合わせと顔合わせ
サムゼンさん達が再び黒の村にやってきた。普段は活気がある広場が、静かだけど僕以外の村のみんなとサムゼンさん達の緊張感に包まれている。理由はサムゼンさん達が王城側の返答を伝えに来たからだ。
「……というわけだ」
「へぇ、意外とちゃんとしてるんだね。てっきり僕は、今日これから王城に行く事になるのかなって思ってた」
「そういう意見も確かにあったが、さすがに姫様の命の恩人に対するものではないという意見が大多数になってな。王城に向かうのはヤート殿達の旅の準備が終わってからで頼む」
「僕達の準備が終わるまでサムゼンさん達は黒の村にいなきゃいけないんだから早くした方が良いよね? 僕は荷造りは終わってるし、あとは
「ガルと違って私も荷造りは終わってるから、すぐにでも行けるわ」
「俺は……一日あれば良いな。というかマイネ、てめえ潰すぞ」
「できるものならやってみなさいよ」
「「……」」
なんで兄さんと姉さんは、どこでもケンカになるんだろ? でも、この流れだと……、うん、姉さんだけラカムタさんの拳骨をもらった。今回は姉さんが一言多かったから仕方ないか。
「俺は引き継ぎと確認したい事があるから二日だな」
「私も二日ほしいです。……すいません」
ラカムタさんとリンリーは二日か、というかなんでリンリーは謝ったの?
「全員の意見をまとめると、出発は三日後だな。サムゼン殿、それでどうだろうか?」
「先ほども言ったが、こちらは貴殿達を急かす気は一切ない。念入りに準備してもらって大丈夫だ。むしろ二日という旅の準備をするには短い期間でかまわないのかと逆に聞きたいくらいだ」
「それは俺達がどこでも獲物を狩れて食料を準備する必要ないからだな。それでもそちらからそう言ってくれたんだ。ヤートに習って少し慎重になるか」
「我らにとってもこの村で過ごす事は貴重な体験になる」
「それではその間にサムゼン殿達が泊まるところに案内しよう」
「感謝する」
ラカムタさんとサムゼンさん達を見送った後、僕はリンリーに話しかける。
「リンリー、この後予定ある?」
「えっ!? あっ、はい!! 大丈夫です!!」
「それじゃあ、散歩に行こう」
「ふえ!! はっはい!!!!」
「リンリーは相変わらず元気だね。これなら、あの二体に会っても大丈夫かな」
「が、頑張ります!!!!!!」
「……頑張る事じゃないから気楽にしてて」
「はい!!!!」
大丈夫だと思うんだけど、これはお互いに会ってみないとわからないか。
「散歩に行ってくるね」
「ヤート、暗くなる前に戻ってくるのよ。あとリンリーちゃんの事、ちゃんと守るのよ」
「うん、わかってる。リンリー行こう」
「はい!!!!」
僕とリンリーは二人で森の中に入り少し待つ。でも、
「こないな」
「…………私、嫌われてるんでしょうか?」
「そういうのじゃないと思う。とりあえず呼んでみよう。おーい!! 話があるから来て!!」
「ヤート君、大声出せるんですね」
「……大声を出す機会がないから出さないだけ」
二人で話していると聞き慣れたドドドドドドドドドッていう二重の地響きが近づいてくる。……改めて聞くと二体いっしょの地響きは仕方がないとは言えうるさい。そして地響きが近づいてくる方を聞いてたら二体が飛び出してきて僕とリンリーの横を地面をガリガリ削りながら通り過ぎて止まった。うん、二体がいっしょだと止まる時の砂ぼこりもすごい。
「ケホ、ケホ」
「ゴホッ、すごい砂ぼこりだね」
「そうで……、ふあ」
「ガア?」
「ブオ?」
「うん、大丈夫。ちょっと砂ぼこりがすごかっただけだから。リンリー?」
「……」
リンリーが二体を見上げて固まっている。砂ぼこりで目をつぶった後、目を開けたら目の前にいきなり二体が見えたから驚いたのか。これは慎重になるべきだな。
「ごめん。リンリーが驚いてるからちょっと下がってほしい」
「ガ」
「ブ」
僕の言葉とリンリーの様子を見て状況を理解したのか、二体はゆっくりと下がって静かに地面に座った。本当に良い奴らだな。それじゃあ、まずはリンリーを落ち着かせよう。
「リンリー、大丈夫?」
「……」
「リンリー」
「ふえっ!!」
「気がついた?」
「ふえっ!! ふえっ!! ふあっ!!」
まず固まっているリンリーに声をかけたけど見事に反応がない。視線が二体に釘付けになっていて身体が微かに震えている。これはリンリーを正気に戻す方が先か。……それならリンリーと二体の間に立ってリンリーの視線を遮る。そして呼びかけながらリンリーの額に手を置いたら、すぐに気がついてくれた。……気がついてくれたのは良いんだけど、リンリーが何か妙な声を上げながらワタワタしだした。えっと、これは大丈夫なのかな?
「リンリー、無理そうなら明日にしようか?」
「だい、大丈夫です!!! ほら、大丈夫ですよ!!!」
「えっと、それじゃあ、まず僕がリンリーの事をあの二体に紹介してくるから、ここで待ってて」
「はいっ!!」
「あっ、それと僕とあの二体のやりとりを、ここから見てて」
「……えっと?」
「兄さんと姉さんも最初は
「……わかりました」
「うん、それじゃあ、ちょっと待ってて」
背中にリンリーの視線を感じながら二体に近づいていく。近づくといつもの癖で二体の身体を触りながら体調を同調で確かめる。うん、相変わらずみっちりと詰まった無駄の無いうらやましい身体だ。
「ガア?」
「うん、出発は三日後に決まった」
「ブオ」
「確認なんだけどさ、本当に良いの? 王城に行くのは確実に面倒くさいよ?」
「……ガァ」
「……ブォ」
なんかすごいため息つかれた。最近、ため息をよくつかれるけど僕ってそんなに変な事言ってるのかな? ……特に変な事は言ってないと思うのに、ため息つかれるんだからは僕がズレてる? こういうズレは治すのが難しい。でも、僕が本当に変な事言ったら、みんなが止めてくれるから気にしないようにしよう。
「ガ、ガア」
「そう、あそこにいるのが黒のリンリー」
「ブオ?」
「うん、僕達といっしょに行く」
「ガアァ」
「わかった」
リンリーのところに戻るとリンリーは落ち着いていた。目を見ていけるか聞こうとしたら、その前にリンリーがうなずいてくる。だから僕はリンリーと、いっしょに二体の方に行く。そして、二体のそばに行ったらリンリーが一歩前に出た。
「えっと、は、はじめまして黒の
「ガア」
「ブオ」
「あの、触っても良いですか?」
「ガ」
「ブ」
「ふああ、うあぁあ」
リンリーが、まだぎこちないけど二体の身体を触っている。それで触ったら、なんかすごいとろけた声を出した。……二体の毛並みは触り心地がすごく良いから気持ちはわかるけど、すごい声だな。さすがに二体もどう反応して良いかわからないのか固まってる。でも、この感じだったらリンリーは大丈夫か。確実に何か面倒くさい事に巻き込まれるだろうから行きたくないけど、ラカムタさんが言ってたみたいにみんなと気楽な旅ができると思えば楽しみになる。面倒くさい事が起こったら、最悪、強引に突破すれば良いだけだしね。うん、そうしよう。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューなどもお待ちしています。
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