黒の村にて 使者と許可
あれからリンリーと毎日じゃないけど散歩するようになった。でもなんでかわからないけどリンリーと散歩する日は
「今日もなかなか良い散歩だったね」
「ガア」
「ブオ」
「……」
「ガ?」
「そういえばおまえらが普段どんなところで生活してるのか知らないなって思ってさ」
「ブオ?」
「もちろん興味あるよ。おまえらは
「ガ」
「ブ」
「そうか、それじゃあ案内してよ」
「……ガァ」
「……ブオ」
「なんで相談してるの?」
なんか僕のお願いを聞いた途端、二体がお互いの顔を見合わせながら相談を始めた。ボソボソ小さい声で相談してるから聞こえ辛いけど、「時間が……」とか「体力が……」とか「ここから離しても……」とか聞こえるから、どうやら僕が長時間の移動に耐えれるかと群――つまり黒の村――から離しても大丈夫かを心配しているようだ。なるほど確かに二体の体力と移動速度なら広大な
「前に比べたら体力はついてるから、ある程度は大丈夫。あと父さん、母さん、村のみんなは、ちゃんと説得するから案内してよ」
「……ガア」
「……ブオ、ブブオ」
「うん、わかった。ちゃんと許可をもらう。そうしたら連れていって」
「ガア」
「ブオ」
よし
「できるだけ早く村のみんなを説得するから」
「ガアァ」
「ブオォ」
「うん、またね」
二体が森に帰っていくのを見送って遠ざかっていく足音が聞こえなくなってから僕は村に入った。……あれ? 朝にはネリダさん達が門番としていたのに今はいなかった。何かあったのかな?
村に入るとピリピリしていて空気もおかしい。……面倒事の匂いがする。どうしよう。進みたくない。でも、帰らないといけないし、……はぁ、諦めて行こう。進んでいると広場の方から門でも感じたピリピリした空気とみんなのざわめきが聞こえてくる。というか、ピリピリした空気の発生源って兄さんと姉さんの気配だった。
あれは、……サムゼンさんだね。サムゼンさんの後ろに部下の人達もいる。それにしても兄さんと姉さんが、サムゼンさんに飛びかかりそうになのを
「みんな、どうしたの?」
「おお、ヤート殿」
「ヤートに近づくんじゃねえ!!」
僕が声をかけるとみんながこっちを見た。それでサムゼンさんが僕の方に来ようとしたら兄さんが全力でサムゼンさんを威圧しだしたし姉さんもすごく険しい顔をしている。前は二人とも普通にサムゼンさんと話してたのに今がこんな状況って事は僕の知らないところで何かあったのかな?
僕が一人で首をかしげていると
「ガル、マイネ、ヤートが状況をわからず困惑しておる。少し静かするんじゃ」
「でも、
「マイネ、一端静まりなさい。ヤートに説明するのが先よ」
「母さん、……わかったわ」
「ガルも良いわね?」
「…………チッ」
姉さんは兎も角、兄さんの舌打ちはダメだよ。あっ、父さんにかなり強めの拳骨を頭に落とされた。うずくまっている兄さんを見る限り相当痛そうだ。
「ヤート、こちらのサムゼン殿は、お前に用が合ってきた」
「僕に用?」
「そうだ。サムゼン殿、先ほどの話をヤートに頼む」
「ありがたい。ヤート殿、久しぶりだな」
「そうだね。僕になにか用?」
「実はな姫様が、ぜひヤート殿に直接お礼を言いたいそうなのだ。それでだ……王城に来てはもらえないだろうか?」
「……一応聞くけど、僕に拒否権はあるの?」
「ヤート殿が
へえ、意外と妥当な考えをしてくれるんだな。それなら僕の答えはただ一つ。
「それじゃあ断るよ。行きたくない」
「……理由を聞いても良いだろうか?」
「簡単な話だよ。前も話したけど僕は面倒くさい事に巻き込まれたくない。王城なんて行ったら、こんな見た目だしたくさんの人目に触れて確実に面倒くさい事の方から寄ってくる。珍しいものが好きって奴いるんでしょ?」
「……そうだな」
「それだったら嫌だ」
「そうか」
「というか、サムゼンさんは断られる事を前提で来てるよね?」
「……やはり、わかるか?」
僕の指摘にサムゼンさんはやりきれない表情になる。
「サムゼンさんの顔見てたら、そんな気がした」
「王や王妃、姫様にも、ヤート殿は、こういう事を好まないと、はっきり申し上げたのだがな。……申しわけない」
「サムゼンさん仕えてる立場だから、王族に言われた事はやらないといけないとは思うけど面倒くさいね」
「……お見通しというわけか」
「うん、あっ、でも、このまま帰ると、それはそれでサムゼンさんが面倒くさい事になるか。……それじゃあ条件を言っておくよ」
「条件?」
「
「それは……」
「サムゼンさんが説得して、なんとか嫌がる僕から条件を引き出したって感じにすれば良いよ。あと「王族の要請に条件を付けるとは無礼な」みたいな事を言う人がいると思うけど、そういう人には「
「……わかった。伝えておく」
「うん、よろしく」
その後、少しお互いの近況を話してサムゼンさんとその部下が帰って行くのを見送った。
「はぁ」
「ヤート、ため息なんてついてどうした?」
「また、面倒くさい事になるなって」
「
「僕も、そうだと思うんだけど……」
「何かあるのか?」
「嫌な予感がする。こういう予感って悪い奴ほど絶対当たる」
「……そうだな」
「……はぁ、これで
僕がポツリとつぶやいたら、いっしょにサムゼンさん達を見送ってたみんなが止まり、少ししてから姉さんが僕に確認してくる。
「ヤート、今なんて言ったの?」
「何って、
「行くつもりなの?」
「うん、でも、一人でじゃないよ。ちゃんとあの二体に案内してもらうから良いでしょ?」
「ヤート、お前は
僕の言葉に今度は
「あの二体と同格か、それ以上の魔獣がいるところだよね」
「そうじゃ、なぜ、そのような場所に行きたいんじゃ?」
「二体の
「そうか……、危険を感じたら、すぐに戻ってくるんじゃぞ。それと最奥に行く時は、きちんと言うんじゃぞ」
「
「他のものならば許可はせん。しかし、ヤートなら話は別じゃ」
「しかし、さすがに危険です」
「まあ、聞くんじゃ。まず、ヤートならわしらの許可が無くとも、ごく自然に散歩の延長として行けるじゃろ。そうなると突然、ヤートが何日も戻らない事になる。じゃが、前もってヤートから行くと知らせてもらえれば、わしらも心構えなり待つ事もできるはず」
「「「「…………」」」」
「わしは、いつかは
「
「ほめとるよ」
「……良いけど」
ジトっとした目を向けると
「ゴホン。今回のサムゼン殿の申し出に関しては様子を見るしかないが今後もしヤートに関わる面倒な事態が起こったならば、ヤートを最奥にやってヤートは村にはいないと言えば良い。それでわしらにヤートを呼んでこいというなら、わしらでも最奥に行くには準備が必要になるから無理と断る事ができ、万が一、ヤートへの脅迫のためにわしらに何かしようとするなら、その時は潰せば良いじゃろ。わしからは以上じゃが何かあるかの?」
「「「「…………」」」」
みんなは何か考えてるけど、この流れだったら僕が
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューなどもお待ちしています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます