黒の村にて 帰還とケンカ
お姫様達と別れた後は、眺めの良いところで休憩したり
そして僕達の見ている先には
「帰ってきたな」
「そうね」
「あらためて見ると同じ森でも
「どんな風に違うの?」
「なんて言うか
「そんなもんか俺には
「それで良いと思うよ」
「久々に
「おう」
どんどん
兄さんが言ってた強い緑の匂い、樹々の間を抜ける風の音、何かの鳴き声、踏みしめる木の葉の音、……うん、帰ってきた。僕の居場所に帰ってきた。
「ヤート、歩き方がウキウキしてる」
「そう?」
「そうよ。私だって全力で走り回りたい気分だからヤートの気持ちもわかるわ」
「俺も走り回りてえな」
「僕はゆっくり散歩したい」
「本当はそうしたいけど、まずは村のみんなに帰還報告をしましょう。その後だったら好きな事できるはずよ」
「おう」
「うん」
ゆっくりと周りを見ながら並んで歩くと黒の村の門が見えてきて門番のネリダさんがいた。あっ、なんかすごい僕らを見て驚いてる。
「ただいま」
「……」
「ネリダさん?」
「おっ、おう。戻ったか。……そのデカイのはどうしたんだ?」
「向こうで散歩仲間になった
「……そうか、それでそいつはどうするんだ?」
「
「ブオ、ブブオ?」
「わかった。あとで森の中を案内するからゆっくりしてて」
「ブ」
「……会話ができてるって事は本当にお前の散歩仲間なんだな」
「そうだけど、なんで?」
「いや、なんとなくそう思っただけだ。おっと引き留めちまったな。みんなに帰還報告をしてこい」
「うん」
村の中に進んでいく。途中ですれ違うと、みんなにびっくりした顔にされるのはなんでだろ? ……気にしてもしょうがないから
「「「ただいま」」」
「三人とも、お帰りなさい」
「無事で何よりだ」
「長旅ご苦労じゃった」
「旅は楽しめたか?」
「うん、旅は楽しめた。旅はね」
「そうか……」
「立ち話もなんだから、座って話しましょう。色んな話を聞かせてちょうだい」
いつの間にか広場に敷物が敷かれて僕用の果物や兄さん達が食べる焼けた肉なんかが用意されていた。始めの内は僕、兄さん、姉さん、父さん、母さん、
「僕は気にしてないし特にケガもないから、みんなが動く必要はないよ」
「ヤート、しかしだな……」
「ヤートの言う通り、みんなが動く必要ないわ」
「確かにそうだな」
「ガル、マイネ、どういう事?」
「ラカムタさんがね、……キレてたわ」
「は?」
「ヤートが赤の村を出た後にラカムタのおっさんが赤と青に全力で威圧しだした。俺とマイネはラカムタのおっさんから離れたいから、ヤートを追ったっていうのもある」
「あのバカものが……、まあ、さすがに手は出さんじゃろうから良しとするか」
「確かにあいつは昔に比べると、静かに深く怒るようになったな」
「そうか、父さんはラカムタさんと同じ世代だっけ」
「ああ」
「そうじゃったのう」
「懐かしいな」
なんか、いつの間にかラカムタさんや父さん、母さん達の子供の頃の話になった。興味あるけど
「ヤート、さっそく散歩か?」
「うん、
「そうか」
「ガァァアアァァーーーーーー」
「ブォォオオォォーーーーーー」
…………ものすごく聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。しかもこの鳴き声は敵意むき出しの全力の威嚇だ。ズドン!!!! バキバキバキ!!!! ズズン!!!! 完全に戦ってるね。帰ってきて早々これか。……とりあえず行こう。
「僕が戻ってくるまで森に入らないでね」
「大丈夫なのか?」
「何とかする」
「門まではいっしょに行こう」
「わかった」
門に着くとネリダさんや広場にいなかった狩人の人達が集まっていた。どうやらなんでか戦い始めた
「ネリダさん」
「散歩か? かなり危険な状況になってるから今は広場に戻れ」
「僕が森に行くから、みんなはここで僕が戻るまで待ってて」
「ダメに決まってるだろ」
「僕が森に行くから」
「だから、ダメだ「僕が森に行くから」、……おい」
「僕が森に行くから」
「ヤート」
「僕が森に行くから」
「……わかった。正直、あの二体の魔獣にどう対処すれば良いか途方に暮れていたところだ。お前に動いてもらった方が助かる」
「そう、じゃあい「ただし」」
「何?」
「お前だったら一人でも大丈夫だとは思うが、万一のために俺達はお前の近くで待機させてもらう」
「ネリダさんは門番でしょ? ここを離れたら、まずいよ」
「気にするな。どういう風にお前が、あの二体の魔獣を抑えるのか間近で見たいだけだ」
「わかった。そういう事ならいっしょに行こう」
ネリダさんと数人の狩人達と激しい戦闘音がする方に向かっていく。徐々に近づいていくと森の樹々がなぎ倒されていたり地面がえぐれていた。でも、それだけだった。……これってもしかして?
「ネリダさん」
「どうした?」
「血の臭いってする?」
「何? …………いや、しないな」
「ふう、そこまで緊迫してるわけじゃなさそうで良かった」
「どういう事だ?」
「たぶん、これは原因はわからないけど殺し合いじゃなくてケンカだって事」
「俺にはよくわからんが、お前が言うならそうなんだろうな」
戦闘音がだいぶ近くなってきた。そうすると二体の声が聞こえた。
「ガア!! ガァア!!」
「ブオ!!」
「ガアーーー!!」
「ブブオ!!」
その内容を聞いたら結構近くで魔獣同士がケンカしてるけど僕は思わず脱力して地面に手をつきそうになる。そんなくだらない事でケンカして周りの被害を広げないでよ。あ~、突然戦い始めたから緊張してたのに、その戦ってる理由がくだらない事だってわかったら、すごいイライラしてきた。
「ネリダさん、みんな、ごめんなさい。このケンカの原因って僕だった」
「あいつらはなんて言ってたんだ?」
「さっきの声を訳すとこうなる」
「ガァ(てめぇ)!! ガァア(あいつを背中に載せたな)!! ガア(えぐるぞ)!!」
「ブオ(ふざけるな)!! ブブオーーー(お前が潰れろ)!!!」
「ガアーーー(あいつを背中に載せるのは俺だ)!!!」
「ブブオ(お前にそんな権利はない)!! ブオーーー(背中に載せるのは俺に決まってる)!!!」
「こんな感じかな」
「……それは何というか、……そのなんだ」
「無理に感想言わなくて良いよ。このくだらないケンカを止めるから少し下がってて」
「おう、わかった。ヤートの邪魔にならないよう下がるぞ」
みんなが離れたのを確認して魔法を発動させる。イライラしてるから強めに発動する。
「
ケンカをしている二体の周りの植物をいつものように成長させて完全に二体を拘束する。二体は突然の事に驚いていたけど近くにいる僕を見て冷静になったみたい。そして冷静になると自分達が周りに広げた被害に気づいて慌て始めた。
「ねぇ、どういうつもりで、こんな騒ぎ起こしたのかな?」
「ブ、ブオ!!」
「ガア!!」
「へぇ、そんな事で?」
「ガ……」
「ブ……」
なんか後ろの方で、「この状況で静かな口調。……怖っ」や「なんか寒気が」とか聞こえるけどどうでも良い。とにかくこの二体には強く反省してもらう。
「動けなくなって反省して。
「ブオ!!!!」
一度こいつを食らってる
「まったく二体とも力が強いんだから、むやみにケンカしないでほしいよ」
「ヤ、ヤート、こいつら大丈夫なのか?」
「あとで別の奴で治すから大丈夫」
「そうか……」
「ネリダさん、僕はこいつらを反省させてるから騒ぎは収まったって
「おう、それは良いが旅から帰ったばかりだ。あまり遅くなるなよ」
「わかった」
ネリダさん達が村に戻っていくのも見ながら、なんで面倒くさい事になるんだろうって考えながら森を吹き抜ける風と緑の匂いに包まれていた。……今ぐらいはため息ついても良いはず。はぁ~。こいつらどうなる事やら……。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューなどもお待ちしています。
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