帰りの旅にて 感謝と忠告

「本当にありがとうございます」

「感謝する」

「この恩は忘れない」


 幻虫パラサイトゴーストをお姫様から光陽草シャインプラントに移して二刻(前世でいう二時間)くらい経ったかな。その間に三人に何度もお礼を言われたけど僕は静かに穏やかに眠っているお姫様のそばにいた。同調で異常がない事を確認してるし病源の幻虫パラサイトゴーストは移したけど、一応もう一度って何回も確認してしまう。やっぱり、初めての事だから不安だ。そんな僕の頭に手が乗せられた。


「ヤート、上手くいったみたいだな」

「なんとかね。兄さん達の方は何もなかった?」

「おう、盗賊の残りがいたら来るかと思ったが来ないって事は倒した奴らで全部だったんだろうな。それよりヤート」

「何?」

「寝ろ」

「え?」

「疲れてるだろ? 寝ろ」

「別に疲れてないよ?」

「自覚してないとか珍しいな。自分じゃわからないか、一度緊張がとけたのに、まだ緊張してんのか? とりあえず大きく深呼吸してみろ」

「……わかった。スーーハーースーーハーー、…………あれ?」


 何回か深呼吸したら足から力が抜けて僕はまた尻餅をついてしまった。それに立とうとしたけど今度は立てなかった。なんで?


「なんで?」

「いつも自分で俺達より体力がないって言ってるヤートが、あんな長く緊張して作業してたら疲れるのは当たり前だろ」


 兄さんに言われて自分の身体に同調してみたら疲労がたまってた。どうやらお姫様の方に集中してたせいで自覚できてなかったみたい。……あ~、自覚したら眠くなってきた。


「ごめん、兄さん。眠いから寝る」

「謝る必要はねえ。あれだけやったんだから寝ろ」

「うん、おやすみ」


 あ~、眠い……。なんか兄さんに抱えられた気がするけどだめだ、ねむ……い。


「ヤートは寝たのね」

「おう、珍しく緊張してみたいだからな」

「今更だけど、ヤートって私達の弟なのよね」

「いきなりどうした?」

「ヤートの寝顔を見たら、なんとなく思ったのよ」

「……俺らも、もっと成長しないとな」

「そうね」

「ヤート様は大丈夫でしょうか?」

「寝てるだけだ」

「そうですか……、姫様の事は本当にありがとうございました」

「もうヤートには言ってるんだろ? だったら俺やマイネに礼を言わなくて良いぞ」

「それでもです。何度言っても言い足りないですから」

「そんなもんか」

「はい」

「それじゃあ、私達は帰りましょうか」

「そうだな」

「あ、あの」

「なんだ? お姫様が起きるまでいてくれっていうのなら断わる」

「……なぜか聞いても?」

「簡単な話だ。これ以上ヤートを面倒くさい事に巻き込みたくねえんだよ」

「あなた達のお姫様がそうとは言わないけど、ただでさえヤートは見た目もそうだし魔法も珍しいから、ヤートを利用しようとするゴミみたいな普人ふじんに伝わる可能性をできるだけ下げたいの」

「わかりました」

「はっきり言っとくぞ。もしヤートをくだらない事に巻き込んだら黒の竜人族りゅうじんぞくを全員敵に回すと思え」

「そうね。確実に滅ぼすわ」


 ガルとマイネの身体から圧倒的な魔力があふれ出してくる。その量は護衛騎士団の団長であるサムゼン、筆頭近衛であるリリ、王族付きの侍女であるリル、それぞれの役割をこなすだけの人並み外れた技量を持つ三人が、ともに勝てないと瞬時に判断してしまうほどの圧倒的な量だった。


「それともう一つ」

「……何でしょうか?」

「黒の竜人族りゅうじんぞくの大人が子供の俺達より弱いと思うなよ」

「肝に銘じておきます」

「じゃあな」


 ガルとマイネが眠っている破壊猪ハンマーボアに近づくと、目を覚まし一声鳴いて乗れという意思を伝えてきた。赤の村からの旅で慣れた二人にはしっかりと伝わり、二人はヤートを前後で挟むように破壊猪ハンマーボアの背に乗った。


「マイネ、ヤートを落とすなよ」

「わかってるわよ。そんな事するわけないでしょ」

「それもそうか。それじゃあ出発してくれ」

「ブオ」


 破壊猪ハンマーボアは三人を背に乗せて歩き出すとすぐに小走りになり、あっという間に加速して離れていく。その姿をジッと見つめているリリとリルの二人にサムゼンが近づいてくる。


「二人ともわかっているとは思うが、一応言わせてもらう。有能な人材ほど得難いものだぞ」

「わかっている。ヤート殿は姫様の命の恩人だ。その恩人に恩を仇で返すような強引な勧誘をできるわけがない」

「私は本音を言えばヤート様には姫様のそばに居てもらいたいですし、私が知らない植物などの教えを受けたいとも思いますが、そうなるとお城までヤート様にお越しいただく事になります。それは魑魅魍魎ちみもうりょうのような貴族の輩に会わせる事になりかねません。それだけは避けたいので、ここで別れる事が正解なのでしょう」

「とりあえず今は姫様が目を覚ますまでの野営場所を探すとしよう」

「そうですね」

「わかった」




 急にガクンッと揺れて目が覚めた。周りを見てみると僕は破壊猪ハンマーボアに乗って移動しているから当然だけど景色が流れている。


「もう、起きて平気?」

「姉さん、おはよう?」

「おはようって時間でもないけど、おはよう」

「僕が寝てる間に出発したんだ」

「そうだ。なんかまずかったか?」

「兄さん、おはよう。特にまずい事はないけど、サムゼンさん達にあいさつできなかったなと思ってね」

「おう、おはよう。あいさつなら俺らが代わりにしといたから、それで我慢してくれ」

「そうよ。私たちが、キチンと色々言っておいたから安心して」

「うん、わかった」


 くーーー。


「……あいつらと別れてから、ずっと移動してたから、そろそろ休憩するか」

「そうね。ねえ、ヤートが食べれそうなものが近くにあるなら、そこに向かってほしいわ」

「ブオ」

「…………う~」


 何か言われたら恥ずかしいけど、何も言われないのも恥ずかしい。どっちがマシなんだろ? ……よし、出来るだけ無かった事にしよう。



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◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューなどもお待ちしています。

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