幕間にて 熊と猪
今思い出しても白い奴は変な奴だ。明らかに弱いのに強いと感じてしまい、なぜなのかと見ていたらいつの間にか目が離せなくなった。目が離せなくなると、いっしょにいる時間が増えた。それなのに突然、白い奴に会えなくなりイライラする。別に、そのイライラは周りにぶつけるほどではないが自分の進む先にいる他の魔獣が怯えて逃げ出すくらいの気配を放っているようだ。
「ガァ(まったく)、ガア(どこにいる)」
……思わず普段はしない独り言がでるくらい調子が乱れてるらしい。
そういえば白い奴がいなくなったら植物も静かになった気がする。あいつがいた時は、もっとワサワサしていたな。……また、あいつの事を考えてしまった。俺はどうしてしまったんだ!?
しばらくイライラを抱えながら考えに没頭していると、周りが微かにしかし確かに変わったのがわかった。
サッ……サッ……、カサカサ、ガサッガサッ、サワサワ、サワサワ、ザワザワ、ザワザワ、周りの植物が騒がしくなってきた。これは間違いない。白い奴、あいつがこの森に戻ってきた。すぐに会いに行こうと歩き始めたが、これでは遠くにエサを狩りに行った親を待つ子供のようだとハッと気づき立ち止まる。俺は、この森でも一目置かれている存在だ。その俺が子供のようなマネをしてはみっともないか? ……しかし、あいつの無事を確認する意味でも出迎える方が良い。……だが、……いや、ここは……、などと考えていたら動けなくなっていた。
そうして深く考え込んでいたら、この森では感じた事がない気配が近づいて来る事に気づく。
そいつは、まるで巨大な岩が動いているようだった。しかし、鈍重さは一切感じられない。一目で戦うとなれば、命がけになるような存在だとわかったため、どうなっても良いように戦闘態勢に入る。それは相手も同じようで俺を見た時から、巨大な胴体や太く強靭な足からミチッとかギシッという音が聞こえてきた。こうなるとお互いに引く事も視線をはずす事も無い。なぜなら引いたりはずした方が敗者になるからだ。そして同時に、こいつにだけは負けたくないと心底思う。
全神経を集中した事で、周りの音や匂いが消え、相手の呼吸、目線、重心、筋肉の盛り上がり、そして匂いがわかった。その匂いには白いあいつの匂いが混じっていた。……一瞬、頭が沸騰しそうになったが、あの白い奴は変な奴だ。この森にいない時に自分にやったような妙な行動したんだろうと考えて静まったが、こいつの背中から白いあいつの匂いがする事がわかると完全に頭は沸騰した。
このデカイ奴は白いあいつを背中に乗せている。それも匂いが残るくらいの回数乗せている。ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなフざけるなフざけるなフざけるなフザけるなフザけるなフザけるなフザケるなフザケるなフザケルな……フザケルナ!!!!!!
白いあいつを背に乗せて良いのは、俺だけだ!!!! お前ごときが乗せるんじゃねぇ!!!!
「ガァァアアァァーーーーーー!!!!!!」
「ブォォオオォォーーーーーー!!!!!!」
クソが!!!! この野郎、俺に合わせるように叫んできやがった!! こいつはダメだ。存在が許せん。だから……。
「ガァ(潰す)!!!!」
「ブォ(潰す)!!!!」
俺のマネをしやがって!!! 気に入らねぇ絶対に潰す!!!!!!
示し合わせたように突進して二体の身体が衝突した瞬間、ズンッ!! という鈍い音が響く。お互いの全力を出しあった結果、
「ブ(フ)」
俺を後退させるだと!? しかも、こいつ俺の全力の突進を受けて笑いやがった。しかも笑った後にさらに力を出してくる。……そうか、こいつ俺を下に見たのか。正面から弾き返せる奴だと思ったのか。……フザケンナ!!!! 頭の中を塗りつぶす怒りを全て込めて、こいつの顔に腕を振り下ろすと、ぶ厚く硬いものを殴った感触がして確かに殴り抜いた。その証拠にこいつの力が緩んで若干ふらつく。こいつの突進を受けて、こいつは見た目通り大きく強い事がわかったが
「ブォォォ(この野郎)!!!」
俺の全力の一撃を受けても気絶しないどころか逆に怒りと闘志が高まっていく。……そういえば全力が出せる相手は久しぶりにあったな。良いぞ、とことんやってやる。こいつは潰す事が決めてるが、それでも楽しくなってきた。それはこいつも同じみたいだ。こういう俺のマネをするところは気に食わん。
その後、お互い樹や巻き込んだり地面に叩きつけたりしながら戦い続けていると、冷たい声が聞こえてきた。
「
ハッとした時にはもう遅く、いつの間にか地面の草や頭上の蔓が伸びてきて俺達を縛り上げていた。普通なら植物だろうがなんだろうが引きちぎれるはずだが、引きちぎろうと動こうとしたそばから、さらに巻き付きや締め付きが強くなり最終的にはほとんど身動きできなくなる。
「ねぇ、どういうつもりで、こんな騒ぎ起こしたのかな?」
「ブ、ブオ(ち、力試しだ)!!」
「ガア(そうだ)!!」
「へぇ、そんな事で?」
「ガ……」
「ブ……」
白い奴が怒っている。理由は状況を見ようと周りを見渡して気づいた。樹がなぎ倒され地面がえぐれている。当然、俺達が原因だ。白い奴は静かな事を好む。そんな白い奴が、これだけ森を荒らした俺達に怒らないはずがない。
「動けなくなって反省しろ。
「ブオ!!!!」
白い奴が腰の小袋から取り出した赤い実を取り出す。俺にはただの赤い実にしか見えないが、デカいこいつは何かわかり身体を固定している植物を引きちぎろうともがいていた。赤い実が赤い煙に変わると俺達の頭部にまとわりついていく。すると鼻や口から入った煙によって強烈な刺激を受け、身体が自然に
「まったく力が強いんだから、むやみにケンカするなよ」
「ヤ、ヤート、こいつら大丈夫なのか?」
「あとで別の奴で治すから、大丈夫だよ」
「そうか……」
「ネリダさん、僕はこいつらを反省させてるから、騒ぎは収まったって村長に伝えてほしい。あと父さんと母さんになぎ倒された樹を治したりするから遅くなるって事も伝えて欲しい」
「おう、それは良いが旅から帰ったばかりだ。あまり遅くなるなよ」
「わかった」
白い奴が黒い奴らを見送った後、俺達は荒らした森を可能な限り直して回る事になった。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューなどもお待ちしています。
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