赤の山にて 青の暴走と猪の決断

「殺す!! 殺す!! 殺す!! 貴様は必ずこの場で殺す!!!」


 うん、完全にキレてるね。それにしても不思議だ。僕は何かキレさせる事を言ったっけ? 思い返してみても特に変な事は言ってないはず。なんでヌイジュはキレたんだろ?


「ブオ?」

「なんで、あいつはキレたのかなって考えてた」

「…………ブォ」

「ちょっと待って、僕は何も変な事は言ってない」

「ブ、ブオ」

「僕の態度がおかしい? 誰だって興味がない事には僕と同じような感じになると思うけど?」

「ブオ……」

「今するのはおかしい? そう?」

「ガアアアア!!!!!!」


 僕と破壊猪ハンマーボアが話してると、暴走したヌイジュが突進してきた。特に魔法を使ってくる訳でもなく、ただ力任せに突進してきた。キレて暴走してるのは分かるけど、それにしてもヒドい。決闘相手のあいつ以下だ。


緑盛魔法グリーンカーペット超育成ハイグロウ緑盛網プラントネット


 僕の魔法でヌイジュの足下の下草が伸びてまとわりついていく。そして足を取られ体勢を崩したところに、頭上から伸びてきた蔓がさらに腕や体に何重にも絡みついていった。今のヌイジュの状態を表すなら緑の網に捕らわれた虫ってところかな。


「ガアアアア!! クソが!! クソをヲヲ!!!!」

「うるさい。こっちは話してるんだから、静かにしてて」


 呆れながら植物に動いてもらい、わめきながら暴れているヌイジュを空中に固定した。追撃しようか迷ったけど、このまま放置する事にする。理由は単純に面倒くさい。ああ、うるさいから口だけはふさごうかな……って、チラッと考えただけなのに勝手にヌイジュの口元を植物が覆っていく。…………この辺りの植物は、なんというか親切だね。


「ウグウ、ムガアアア!!!!」


 口をふさいでもうるさい。やっぱり追撃するなり眠らすなりした方が良いのかな? 僕が少し迷ってから追撃しようと手を伸ばした時に後ろから声をかけられた。


「待ってくれ」


 後ろに振り向くと、ヌイジュの反撃にあって吹き飛ばされていた水守みずもりの一人が立っていた。


「何?」

「あとは俺達に任せて貰えないか。お前には手を出されたくない」

「一度全員で抑えようとして、油断してたのか知らないけど情けなく吹き飛ばされてたのに、ずいぶんと都合の良い事を言うね」

「虫の良い事を言っているのはわかっている。だが、頼む」

「へぇ、気に入らない相手にも頭を下げれるんだ。少し見直した。ほんの少しだけだけどね」

「…………頼む」


 こいつは手から血が滴るくらい強く握っている。他の奴らも似たような感じで、悔しさや屈辱感を身体からにじませながら頭を下げてる。


「良いよ。イリュキンにも言ったけど僕は散歩がしたいだけで、お前らみたいな面倒くさい奴らに関わりたくない。このままヌイジュは縛っておくから」


 僕が歩き出そうとしたら破壊猪ハンマーボアが僕の服に牙を引っ掛けて止めた。なんだろうと思って聞こうとしたらブンって空中に放り上げられた。突然の事に驚いたけど、下を見たら着地点に破壊猪ハンマーボアのたくましい身体があって僕は抱き着くような形で着地する。


「びっくりするから、一言言って欲しいんだけど」

「ブオ」

「……やってから言わないでよ」

「ブブォ」

「それもそうか、じゃあ行き先は任せる」

「ブ」


 僕と破壊猪ハンマーボアのやり取りを水守みずもり達は唖然として見てた。一応、一言あった方が良いよね。


「それじゃあ僕達は離れるから、あとはよろしく」

「あ、ああ」


 これで面倒くさい奴らから離れたって思いたいけど、他の水守みずもりは暴走してるヌイジュに意識を刈り取るような強引な方法を使わないみたいだからどう考えてもダメだろうね。……これは戦い方の方針を決めておいた方が良いかな。


「ブオ?」

「うーん、確かにヌイジュが襲ってきても、お前が突撃したらすぐに終わるけどやめてほしい」

「ブ?」

「たぶんお前が手加減してもヌイジュが耐えれない。下手にやってヌイジュに致命傷を与えたら、お前が他の竜人から討伐対象になりかねないから、それはいやだ」

「……ブオ」

「はぁ、なんで面倒くさい事に巻き込まれるんだろ?」


 破壊猪ハンマーボアの背中に、うつ伏せに寝ながら思わず愚痴を言ってしまう。こんな面倒くさい事が無ければ、散歩したり破壊猪ハンマーボアの背中で寝ながらノンビリできるのに残念だ。そういえばまず面倒くさい事に会うたびに現実逃避する癖を直さないとまずいな。現実逃避する暇があったら素早く対応した方が良いしね。でも、現実逃避ってついついしてしまうものだから無くすのは難しいかもな。


「ガアアアア!!!!」


 はぁ、予想通りか。聞き覚えのある叫び声が聞こえた方を見ると、僕と破壊猪ハンマーボアに向かって青いものが高速で迫って来ていた。素早く反応した破壊猪ハンマーボアが横に飛ぶと、青いものが僕達のすぐ横を抜けて樹に激突する。そばを抜けて行く時によく見たら、その青いのは水守みずもりの一人だった。……予想通り失敗したみたい。はぁ、外れて欲しい予想ほど当たるのはなんでだろ? ……やりたくないけど、こうなったら仕方ないか。諦めて僕が降りようとしたら、破壊猪ハンマーボアが身体を揺らして邪魔してくる。


「降りたいんだけど」

「ブオ」

「ダメだってなんで? ヌイジュは僕を狙ってきてるんだから、このままだとお前も巻き込んじゃう」

「ブブォ、ブオ」

「確かにもう遅い気はするけど、だからってお前まで身体を張る事ない。お前の足なら確実に逃げれる」

「……ブオ、ブ」

「ヌイジュが気に食わないし背中は見せないって、そんな事言ってる場合じゃな、うわ!!」


 僕が破壊猪ハンマーボアを説得していると急に走り出す。落ちないようにしがみついて前を見たらヌイジュが目を真っ赤にして、いくつもの水弾ブルーボールを発生させていた。キレたまま魔法を発動させるなんて器用だなと思ってたら僕達の方へ全弾が放たれた。


「危ないっ」

「ブ」


 僕は叫んだけど破壊猪ハンマーボアは一切速度を落とさず弾幕に突っ込んでいく。その結果、半分位は後ろに抜けて残りは破壊猪ハンマーボアの顔に当たったけど、それでもまったく怯まずヌイジュに突っ込んでいく。そういえば破壊猪ハンマーボアって前方からの衝撃には強かったな。でも、あれだけの弾幕に突っ込んでいくとか信じられないよ。


「危ないのに何考えてるの!?」

「ブォォ」

「は? これで同じ? 何の事?」


 破壊猪ハンマーボアの行動の意味がわからないけど、どんどん水弾ブルーボールを放ってくるヌイジュに近づいていく。もう少しで激突するというギリギリのところでヌイジュは迎撃を諦めて避けた。でも避けるのが遅かったせいで、破壊猪ハンマーボアの突撃を身体にかすってしまいそのまま吹き飛ばされてしまう。かすっただけで吹き飛ぶとかすごい威力だな。でもこれなら納得できる。こんな威力があるなら、どれだけ数があっても水弾ブルーボールぐらいで止まるわけがない。改めて高位の魔獣はすごいって思う。


「ガハッ!! …………ガアアアアアア!!!」


 ヌイジュは数ルーメ吹き飛ばされ樹に叩きつけられたけど、すぐに頭を振りながら立ち上がり叫ぶ。これで気絶して欲しいっていう期待は儚く散ったか。相変わらず破壊猪ハンマーボアは降ろしてくれないし、どうしよう?


「クソガアアア、オレノジャマスルナアアア!!!」

「あ~あ、ますますキレた」

「ブ、ブオ」

「そういう事か、これでお前もヌイジュの気に入らない奴として認識された。例えここで僕と別れても、当然狙われる。なるほど確かに僕と同じでヌイジュに狙われる立場になったね」

「ブオ、ブオ」

「はあ、わかった。こうなったら最後まで付き合ってもらうからね」

「ブオ!!」


 結局、ヌイジュをどうにかするしかなくなったけど、頼れる相棒がいるしだいぶ気が楽だね。



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◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューなどもお待ちしています。

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