赤の村にて 到着と治療
「よう!! ラカムタ!! ようやく着いたか!!」
「久しぶりだな。イギギ、今回は世話になる」
ついに赤の村に着いた。はっきり言って何か起こりそうだから来たくなかったけど着いてしまった。あの巨大な猪にできるだけ近づかないようにすれば少しはマシかもとは思うけど……多分無理だろうね。なんでかわからないけど何か起こるっていう感じがする。兄さん達も言ってたから僕にも野生の勘みたいなものがあるらしい。
「ラカムタ、黒のお前らが最後だ。今回はずいぶんゆっくりだったな」
「遅れて無いからかまわないだろ。それにゆっくりだった理由は知ってるはずだ」
「まあな、あの坊主だろ?」
「そうだ。ヤート、こっちに来い」
ああ、早く村に帰って散歩したい。これから起こるだろう事を考えて半ば現実逃避していた僕はラカムタさんに呼ばれたため現実に戻ってきた。
「何?」
「紹介するから赤の村が初めての奴も聞いておけ!! 今俺の隣にいるでかい奴が赤の
「おめえがヤートか」
「はじめまして黒のヤーヴェルト、みんなからはヤートって呼ばれてます。今日からしばらくの間お世話になります」
頭を下げた後、イギギさんを見ると普通にあいさつしただけなのに、なぜか驚いた顔をしていた。どうしたんだろう?
「……ラカムタ、こいつはいつもこんな話し方か?」
「いや、そんな事はない。初対面だから礼儀正しくしてるだけだ」
「ふう、安心したぜ。おいヤート、普通に話せ。そんな話し方されるとむず痒くて仕方ねえ」
「そう? じゃあ普通に話すよ」
「そうしろそうしろ。しかし、話には聞いてたが本当に白いな」
「
「おう!! 初めて見たぜ!!」
「生きてる間に僕以外の
「そういう時はとりあえず動くんだよ!! そうすりゃ会えるかもしれねえだろ?」
「それもそうか、やっぱり僕は難しく考え過ぎかも」
「待て待て、ヤートあまりイギギの影響を受けるなよ。お前が変に考え無しになったら困るぞ。……それよりもだ。イギギ、あれはどういう事なんだ?」
ラカムタさんが猪の入っている檻を目線で示すと、イギギさんは苦虫を噛み潰した顔になった。どうやら赤の竜人達にとっても交流会間近の腕試しは賛成できない事らしい。
「
「……そんな事で俺達の到着が遅れたのか。しかし、そんな奴が戦ってたとすれば邪魔しなくて正解だったな」
「……まさか」
「ああ、二日前にちょうど腕試しにかち合ってな。万が一にもこんな時期にやるような奴と関わり合いになりたくなかったから、かなり回り道をしたというわけだ」
「……すまん。赤を代表して謝罪する」
「謝罪は受ける。だが、警戒しろよ」
「何にだ?」
「お前らは何も感じて無いかもしれないが、俺達はヤート含めた全員が何かが起こると感じている」
「さすがにそれは無いだろ。ここをどこだと思ってんだ? 赤の村だぞ。何か起こっても、すぐに潰すぜ!!」
「だと良いんだかな……」
「どうだ!! これが俺の実力だぜ!! 他の色の奴らには出来ないだろ!!」
「ねえ、クトー。君はそんな事を言うために交流会の間近に腕試しをしたのかい?」
「よう、青のイリュキン!! 俺は舐められるのが嫌いだからな。俺の実力をはっきり見せるためにやっただけだ!!」
「まったく……、今回の交流会がいつもと違う。それはわかってるだろ?」
「チッ、知ってるよ!! 黒のあいつだろ?」
「わかってるなら、わざわざやらないでくれ……」
「あんな奴が交流会に来る事が間違ってんだよ!!」
「今回は彼の顔見せも兼ねてるんだからしょうがないだろ」
「たまたま
「その
「交流会は各村の中で選ばれた奴が参加を許されるんだ!! それが
赤のクトーが巨大な猪の檻をイラつきのまま力任せに殴るのを見て、自分の行動や態度が黒との対立をもたらすと考えないのかと青のイリュキンは小さくため息をつく。それに周りにいる他の青や黄土の竜人達も少なからず同じ考えのようで、なんとか無難に交流会が終わって欲しいと心から願っていた。
「ブォ……」
「うん?」
「イリュキン、どうした?」
「いや、檻の方から音が……」
「このデカ物は俺様が倒してんだ。そんなわけねえだろ」
「確かに見るからに瀕死だし、気のせい……」
「ブォォォォォォォ―――――――!!!!!!!」
突然、瀕死だった猪が立ち上がり檻を突き破り周りにいた竜人達を吹き飛ばして、自分に奇襲を仕掛けてきたクトーを牙で貫こうと突進した。クトーはいきなりの事で避けれなかったが、なんとか迫る牙の前に腕を入れたが、何の障害にもならずあっさりと牙がクトーの腕を貫通する。さらに不自然な体勢で襲われたため踏ん張る事もできず身体ごと運ばれ壁と猪に挟まれ潰されようとしていた。
「クト―――!!!」
まさに壁にぶつかるギリギリで、イギギが猪に体当たりを繰り出して猪の身体がグラつきクトーの身体が投げ出された。しかし猪はすぐに体勢を戻すとクトーに突進するために力を溜め始めたが、近づいてくる他の竜人達に気づいて闇雲に突進を繰り返す。周りにいたものを吹き飛ばし最後に向かったのが黒の竜人達の方だった。
「……やっぱりこうなったか。ラカムタさん、あいつ止めれる?」
「ずいぶん弱ってるからできるだろう」
「そっか、じゃあお願いしても良い?」
「わかった。おまえら手伝え!!」
数人がうなずくのを確認するとラカムタさんは猪に向かっていった。そしてラカムタさんが突進してきた猪を見事正面から押し留めた後で、動きの止まった猪を数人ががりで抑え込んだ。
「ヤート、どうするの?」
「治療して逃がす」
「そう、素早くした方が良いわね」
「そうする」
僕は姉さんに返事をすると猪に近づき身体の状態を確認していった。どうやら裂傷と打撲、それに走り方に多少の違和感があったから筋肉か骨を痛めてる可能性大か。やっぱり詳しく状態を確認した方が良さそうだ。そのためには……。
「みんな、こいつを落ち着かすから、もう少し抑えてて」
「わかった。ヤートが言うまで気抜くなよ!!」
「「「「おう!!!!」」」」
とりあえず撫でてみるかな。うーむ、血で汚れてるけど良い毛並みだね。よく食べてよく動いた健康体だね。僕が撫で続けてると猪の身体がグラついてきた。これは出血と体力低下と脱水症状かな? まずいな。
「ラカムタさん座らせてあげて、もう立ってる体力もないみたい」
「わかった」
ラカムタさんに頼んで大きな猪を地面に座らせる。それで顔の正面に行くと
「喉乾いてるだろ? これ飲んで落ち着いてよ」
「ブォ……」
「警戒するのはわかるけど飲んでよ。はぁ、しょうがないな」
「ブオ!!」
どうしてだろ? 無理矢理口に水を入れようとしたら必死に飲み始めた。何かを感じたのかな? まぁ、飲んでくれるなら良いか。
「みんなありがとう。落ち着いたみたいだから、もう良いよ」
「そうか、ヤートどんな感じだ?」
「脱水とか疲労がひどくて回復出来なくなってるから、まず水分と栄養をとらせる」
「栄養……、何か狩ってくるか?」
「非常用に持ってきた奴があるから大丈夫。それより、あっちにも必要かもしれないから薬草とか持っていってほしいかな」
「それもそうだな。それじゃ俺達は向こうに行くが無理はするなよ」
「ラカムタさんは僕の性格知ってるでしょ? 基本的に僕は出来る事しかしない」
薬草をラカムタさんに渡して少しすると猪の水のガブ飲みが落ち着いてきたから次は栄養か。今から使うのは兄さん達を補助するために持って来たものだけど魔獣にも効果はあるはず。腰の小袋から葉っぱに包まれた卵くらいの物を取り出し猪に見せると、少し匂いを嗅いだ猪は目を輝かせ始めた。
「これが何かわかるんだ」
「ブォ!!」
「了解、食べなよ」
それを僕が投げると猪は口で受けて噛み始める。なんとなく顔が笑ってるように見えるから魔獣も気に入るものに仕上がってるみたいで安心安心。少しすると飲み込んだ猪が物足りない顔をしたから、まあ良いかと思って小袋に入っていた残りの五つを全部あげた。その後は様子を見ながら水を飲まして半刻(前世でいう三十分)もすると、どうやら体力が回復したらしく鳴き声や身体にも力強さが戻ってきた。
「水分と栄養をあげたとは言え半刻(前世でいう三十分)で回復するなんて、さすがに野生だね」
「ブォォ!!!」
「ケガは治療してないんだから、まだ動かないで」
ボロボロの状態から回復して動きたいのか立ち上がろうとした。でも、傷自体の治療はしてないから猪の鼻を撫でて再び落ち着かせた。
「それじゃ、これから傷の治療をするけど確実に染みるから我慢してよ」
「ブォ?」
まず、猪の傷がひどい部分の汚れを
「ブッ!!」
「お前の回復力なら、すぐに終わるから我慢して」
それから傷口に次々塗っていき一通り終わると染みるのを耐えている猪の身体を撫でながら確認していった。
「もう動いても良いよ」
「ブォ?」
「ゆっくり立ってみて」
目の前で猪が、ゆっくりと立ち上がった。前足を動かしたり身体をひねったりしてるけど特に違和感は無いみたい。よし、これなら縄張りまで無事に戻れるだろうから大丈夫だ。
「ラカムタさん!! こいつを逃がしてくる!!」
「わかった。ただし、ガルとマイネも連れていけ」
「うん、兄さん、姉さん、良い?」
「当然だろ」
「問題ないわ」
「そっか、じゃあ行こう」
猪の身体を軽く叩いて先に歩き出すと猪は静かについて来た。まったくこんな事に巻き込まれなきゃ静かに暮らしてたのに迷惑な話だね。しばらく歩くと猪と赤の竜人――クトーって言ったかな?――が戦っていた山が遠くに見えてきた。ここまで来れば、もう良いか。隣にいる猪を触って話しかける。
「ここまで来れば大丈夫だよね?」
「ブォ!!」
「うん、元気でな」
「ブォォォォォ―――――!!!!!」
猪が雄叫びを上げながら戻っていくのを見て自己満足かもしれないけど良い気分になった。でも、赤の村に戻った時の事を考えると頭が痛い。まあ、自分がした事だからしょうがないんだけどね。
「はぁ、ものすごく嫌だけど赤の村に戻ろうか」
「安心しろヤート。あいつの相手は俺とマイネがするから気にすんな」
「そうよ。ヤートが相手する必要はないわ」
「ありがと。でも、多分無駄だから僕がなんとかするよ」
はぁ、本当に面倒くさい。まぁ、無理しない程度に頑張るか。そんな事を考えながら赤の村に戻り始めた。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューなどもお待ちしています。
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