始まりの旅にて 警戒と回避

 前方の山から破壊音が聞こえてきて僕達は僕を中心とした警戒態勢になっていた。これは別に僕が指示したわけじゃ無くて、他のみんなが事前に打ち合わせていたようで素早く僕の周りを兄さん達や他の子供が囲い、さらにその周りをラカムタさん達大人が囲んでいた。どうやら破壊音は前の方から聞こえるけど、とりあえずは全方向を警戒するため僕を中心とした二重円の陣形になってるらしい。それにしても……。


「なんで、僕が中心になってるの?」

「……いや、当たり前だろ」

「そうなの?」

「ヤートは私達竜人族りゅうじんぞくには珍しい補助ができる後方要員なんだからヤートが陣の中心とか奥に位置するのは当然よ」

「補助? ……姉さん達は地形とかの難所を強引に突破してたから、旅の中で僕が補助できた覚えなんてないけど?」

「「「「「「「うっ」」」」」」」


 僕が素直に思ったまま言うと、みんながしまったみたいな顔になった。なんで僕の身体の事とか言わないんだろう? うーん、妙な気を使われてるのかな? 僕の身体が弱いのは事実だから守られる立場になるのは当たり前で、みんなが気を使う必要なんてないと思うんだけど、今言う事じゃないか。


「……ラカムタさん、これからどうするの? しばらく待機?」

「そうだな……、わざわざ危険を侵して近づく必要はない。しかし、破壊音の聞こえる前方の状況確認のために三人を出す。その後その三人が戻ってきしだい行動に移る。行け」


 ラカムタさんが言うと破壊音のする前方を警戒していた三人がうなずいて音も無く走り出した。さすがに旅に選ばれる大人だけあって一流の技量だね。それにしても、それなりに離れてるのにうるさいくらいの破壊音を一対一の戦いでよく出せるな。


「ヤート、何かわからないか?」

「確認する人が行ってるのに、なんで僕に聞くの?」

「お前ならわかるだろ?」

「……あそこにいるのは赤の竜人の三人組と魔獣が一体で、その内の赤の竜人一人と魔獣が戦ってる音が、この破壊音だね、あとは……」

「わかるとは思ってたが、そこまで正確にわかるんだな」

「同調して植物に教えてもらっただけ」

「……そうか、他にわかる事はあるか?」

「一人帰って来るから、僕が言うより実際に見てきた人に状況を言ってもらった方が良いと思う」


 僕が言い終わると、すぐに一人が戻ってきた。特にケガもして無いから安全な場所から確認したようだ。


「ラカムタ、三人組の赤の竜人の内の一人の子供が魔獣と戦ってる。どうやら腕試しらしい。まったく、わざわざ交流会が開催間近の今にやる事じゃないぞ」

「…………」

「どうした? 何かあったのか?」

「いや、ヤートが言った通りだと思ってな」

「ヤートの……? ああ、ヤートの魔法があったな。と言う事は、俺達が確認に出なくても良かったか」

「実際に確認してもらった方が正確だから、そんな事ないよ。情報は多いに越した事はないしね」

「……それもそうだな」


 確認に出ていた人が微妙な顔をしてた気がするけど、たぶん気のせいかな。それよりもしばらく腕試しは終わりそうにないのが問題だ。今日中に赤の村に着きそうだったのに、その赤の竜人に邪魔されるのは皮肉な話だね。これからどうするかわからないけどラカムタさんに一応提案はしておこう。


「ラカムタさん、僕の魔法ならバレないように鎮めれるよ?」

「あー、そうだな。ヤートの魔法なら確かにやれるだろうが、その事が赤にバレた場合に難癖をつけられて面倒な事に巻き込まれるかもしれん。今は急ぐ必要も無いから回り込んで赤の村に向かうぞ」


 ラカムタさんが、方針を決めて残りの二人が合流するとみんな動き出した。そういえば前世の小説に「フラグは折るものだ」ってあったな。ラカムタさんが今回の旅では安全を重視するって言ってたから当然の選択か。とはいえ僕がいなかったら、みんなは間違いなく直進して強引に突破したと思う。




 あれから二日が経ち、ようやく赤の村が見えるところまで近づいた。本来なら腕試しに遭遇した日に着いてるはずだから余計な回り道をした事がよくわかる。


「黒の村から赤の村までけっこう距離があったけど、それをみんな自力で二週間足らずか。……ちなみにラカムタさん」

「なんだ?」

「普通の旅だと、どれくらいかかるの?」

「そうだな……、だいたい半分くらいだろうな」

「…………そう」

「ヤート、俺を含めて今回の旅に参加したものは良い経験ができたから気にする必要はないぞ」

「経験?」

「そうだ。竜人族りゅうじんぞくの旅は体力や身体能力に任せた強引なものに成りがちで、毎回少なからずケガ人が出ていたんだが今回は全員無傷だ」

「安全を重視したら当然の結果だと思うけど……」

「ヤートは安全性について自然に考えているが俺達は大体の事を身体能力や魔力に任せてどうにかできるから、どうしても安全は二の次になってしまう。そんな中で今回の旅は安全を第一に行動をとれた。つまり、普段とは違う経験ができたって事だ。だから気にするな」

「理由を説明してくれるのは良いよ。でもさ、みんなして僕の頭を撫でないで……」


 なぜか、ラカムタさんを始めとしたみんなが僕を撫でていく。頭をポンポンされるよりは良いけど、やっぱり少し妙な気分になる。でも、今は子供だからしょうがないかと思い、せめて撫でられないようにみんなから離れた時に、それが目に着いた。


「うわ……」

「どっ、どうした?」


 普段ほとんど感情を乱さない僕が苦い感じの声を出したせいか、兄さんが慌てて僕に走り寄ってきた。


「あれ……」

「向こうがどうかしたのか……って、うげ、回り道したのにこれか」


 兄さんの感想と同じような事を、みんなつぶやいていた。なぜなら前世でいうワゴン車ぐらいの大きさの猪を車輪が付いた巨大な檻に入れて運んでいる赤の竜人族りゅうじんぞくが目に入ったからだ。


「檻に入れてるって事は、あれ生きてるよね?」

「……そうだな」

「ねえ、ラカムタさん帰っちゃダメ? わざわざ何か起こりそうな所に行きたくないよ……」

「……何か起こると決まったわけじゃない。それに旅の始めにも言ったがヤートの交流会への不参加は無理だ。その点は諦めてくれ」

「……わかった。それにしても勉強になったよ」

「何がだ?」

「嫌な事って避けたと思っても、向こうからやって来るんだね」

「…………そうだな」


 はあ、フラグって簡単には折れないんだな……。




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◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューなどもお待ちしています。

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