赤の村にて 朝食と朝から騒がしい奴

「ただいま!!」

「三人とも戻ったか。あの魔獣は問題なかったか?」

「一応、移動してる時にも確認したけど大丈夫だった」

「そうか、それなら良い。無駄に殺す必要は無いからな」

「そうね」


 僕達が戻って猪の様子なんかを話しているとイギギさんが近づいてきた。表情が曇ってるけど、何かあったのかな?


「あー、三人とも無事に戻って何よりだ。ヤート、薬草でケガ人の治療ができて助かった。感謝する」

「役に立って良かった。気にしないで」

「一つ聞きたいんだが良いか?」

「あの猪に食べさせてた奴の事?」

「そうだ。あの猪……、破壊猪ハンマーボアという魔獣だが、いくら魔獣でもあの回復力はおかしい。何を食べさせたんだ?」

「僕が作った薬草団子だよ」

「薬草団子?」

大神林だいしんりんで採れる薬草が主な材料で他に果物も使ってる。作り方は、まず薬草を洗ってから少しずつ水を入れてすり潰す。そこに煮詰めた果物の絞り汁を加えて、あとはひたすら練っていく。最後に干して固まった物を小分けにして洗った葉っぱに包んで出来上がり」

「……手間がかかってるな」

「まあね。でも、魔獣にもあれだけ効果があったんだから作った甲斐があったよ。本当は今回の旅の非常用だったんだけどね」

「そうか、とりあえず今日は寝床に案内するから休んでくれ。歓迎の宴なんかは明日やるから楽しみにしててくれよ」

「うん、楽しみにしてる」


 イギギさんに案内されて今日の寝床に着いた。建物は黒の村と似てて一言で表現すると質実剛健って感じの大きなログハウスかな。変に飾られても落ち着かないから、こういうのが良い。それにしても赤の村に着いてから疲れた。それに交流会か……どうなる事やら。そんな事を考えながら眠りについた。




 赤の村での二日目がやってきた。昨日は気がつかなかったけど、こっちは年中蒸し暑い大神林だいしんりんに比べてさわやかで涼しい。これは赤の村が高い山の上の方にあるからだね。想像だけど前世で夏の高原に行ったら、こんな感じかもしれない。さて昨日が昨日だけに今日も何か起こるかもしれないから無難に乗り切れるように無理せず頑張ろう。これからの事に思いを巡らせていたらラカムタさんが部屋に入ってきた。


「お、ヤートは起きてるか」

「ラカムタさん、おはよう」

「おう、おはようさん」

「そろそろ赤が朝飯を用意してるだろうから、他の奴らを起こしてくれ」

「わかった」


 ラカムタさんと朝のあいさつをした後、みんなを起こした。まあ、起こすっていっても竜人族りゅうじんぞく欠色けっしょくの僕を含めて寝付き・寝起きが、ものすごく良いから軽く声をかけるだけで済む。


 前世の痛みで寝れなかったり起きても長い時間意識がはっきりしなかったのに比べると、今の身体は本当に楽だね。それに前世だったら部屋の温度・湿度が少し変わるだけで咳が止まらなかったり体調が崩れて寝込んでたけど、今は旅先の環境を楽しめてる。健康は大事だなって実感するよ。窓辺で身体を伸ばしてると兄さんが近づいてきた。


「ヤート、身体の調子はどうだ?」

「兄さん、おはよう。気持ち良く寝れてパッと起きれたし旅の疲れも残ってない」

「おう、おはよう。そうか、それなら良い」

「旅先でも寝付きと寝起きが良いっていうは体調が保ててすごく便利だよね」

「確かに便利だよな。俺も今すぐ狩りに行きたいくらいだ!!」

「僕も散歩に行きたいなって思ってる。朝の空気を感じたいよ」

「……二人とも落ち着きなさい。まずは朝食が先よ」


 なんか姉さんに呆れられた。でも、確かに落ち着いた方が良さそうだ。食事は食事で楽しみな時間だし慌てるのは損だね。こっちだと、どんなものが食べられるのかな?




 黒の全員が食事場所として予め教えられていた赤の村の中央広場に行くと、すでに他の竜人族りゅうじんぞくも揃っていて広場のあちこちで朝食用の肉が大量に焼かれていた。この状況を見ると赤の村の食料の蓄えは万全らしい。それなのに、なんで赤のアイツは破壊猪ハンマーボアを襲ったのかよくわからないな。


 …………今はあいつの事より食事に集中しよう。黒に割り当てられた場所に向かうと、他と同じように焼かれている大量の肉と山盛りの果物がある。果物の方はどう考えても僕の分だね。見たところ大神林だいしんりんで採れる蒸し暑いところの果物じゃなくて、リンゴっぽい奴や野イチゴっぽい奴が一皿ずつ山盛りになっていた。旅先でも新鮮なものを食べられるのは幸せだね。


「よし!! 全員揃ったな!! それじゃあ、たらふく食べてくれ!!」


 イギギさんが言い終わると全員が食べ始め、兄さんと姉さんも他の人に負けないくらいの勢いで肉汁滴る焼けた肉にかぶりつく。相変わらず竜人族りゅうじんぞくの食事風景は見てて気持ちが良くなるくらい豪快だ。僕は僕で野イチゴっぽい奴を口一杯に頬張って食べている。甘酸っぱい味が最高だ。リンゴっぽい奴も、みずみずしくてシャリシャリしてて良いね。赤の村周辺で採れる果物を味わってたら、イギギさんが僕達の様子を見にやってきた。


「よう、ヤート!! こっちの果物はどうだ?」

「すごく美味しい」

「そうか、たらふく食べろよ」

「うん」


 僕が食事してると、なぜかみんなが温かい目を向けてくる。それになんでかイギギさんが僕の頭を撫でてくるけど今は食事が優先だ。…………うん? なんか、周りが静かになったような? それにイギギさんが撫でるのやめたね。どうかしたのかな? ま、食事の方が大事だ。


「おい!! 欠色けっしょく!!」


 振り向くと赤の竜人の子供がいた。確か……クトーだったかな。はあ、今日も何かあるとは思ってたけど朝一からか……。まったく、勘弁してほしいよ。…………とりあえず無視しよう。また食べ始めるけど、さっきより美味しく感じない。やっぱり気分によっても味の感じ方が違うんだね。


「無視するな!!」


 うるさいなあ。はあ、相手したくない。したくないけど、しなきゃダメか……。


「……何?」

「俺と勝負しろ!!」

「イヤだ」

「なっ、なんだと!! 逃げる気か!?」

「は?」


 こいつは一体何を言ってるんだ? なんで食事中に戦いを挑まれて、それに応じなきゃいけないんだろう? 本当に意味がわからない。それが赤の竜人の普通かもしれないと思ってイギギさんを見ると、明らかに唖然としていたから赤の竜人側から見てもおかしい言動のこいつは何?


「なんで?」

「あ?」

「なんで断ったら逃げる事になるわけ?」

「戦わないのは逃げるって事だろうが!!」

「僕は食事中なんだけど?」

「どんな時でも、戦いを挑まれたら受けるのは当たり前だろうが!!」

「それってお前にとってはだよね?」

「そうだ!!」

「お前の考えを押し付けられても困る。僕は食事優先」

「そんなに負けるのが怖いか!!」


 こいつは本当に何を言ってるんだろう。食事優先したら、なんで逃げる事になるの? こいつの言ってる事は何一つ理解出来ない。まあ戦わないと、こいつにつきまとわれるのは想像できるし、そろそろ兄さんと姉さんがキレそうな感じがするから戦いを受けるしかないか……。


「……分かった。戦うよ。ただし、この食事の後でね」

「てめえ!! やっぱり逃げ「ねえ」なんだ!?」

「僕は大人数がいる前で戦うと言ったのに、なんで逃げると思うの?」

「すぐに戦いを受けないような奴は逃げるに決まってる!!」」

「すごい決め付けだけど、それだったら僕をそのまま見張ってれば良いんじゃないの?」

「あ……」


 こいつ……本気か? それとも演技? …………ここまで変な行動をされると演技って疑いたくなるな。……なんか考えるだけ無駄な気もするから気にしないでおこう。


「それで返事は? 待てるなら食事続けるし、もし待てないのなら食事を止めるけど?」

「てめえ、……良いだろう。食べ終わるまで待ってやる」

「……そう、じゃあ遠慮なく食事を再開させてもらうよ」


 その後も僕が食べ進めてたらクトーがイラついきてるのがわかった。どうやら、なかなか僕が食べ終わらない事にイライラしてるみたい。別にイラつかれても関係ないけどね。


「てめえ、いい加減にしろよ!!」

「何の事?」

「わざとノロノロ食べてやがって!! やっぱり逃げる気だな!!」

「普通に食べてるけど? というか普段食べれない果物を食べてるから、いつもより早いくらいだよ。疑うなら黒のみんなに聞けば良い」

「グッ……」

「ちゃんと僕は待てないなら食事を止めるけどって聞いて、それに対してお前は食べ終わるまで待つって言ったよね? 待てないなら、なんでそう言ったの?」

「それは……!!」

「さっきも言ったけど待てないならやめるけど、僕は食事を続けて良いの?」

「…………続けろ!!」

「そう。それなら、おいしくてまだまだ食べるから待ってて」


 僕が言い終わり、また食べ始めると後ろからガリッとかメキッっていう音が聞こえてきた。歯ぎしりや力いっぱい拳を握ってるみたい。戦う前から、そんなに力入れてたら疲れるだけなのに何やってるんだろ? うーん、竜人だったらそこまで影響ないのかな? そんな事を考えながら最後までじっくり味わって食べた。さて、やりたくないけどやりますか。



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◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューなどもお待ちしています。

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