生まれてから 趣味と不意の遭遇 前編
「行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけるのよ」
「わかってるよ。母さん」
僕は周りのみんなと比べて身体が弱いけど前世と違って歩ける。少し今日の日差しは強いけど風が良い感じに吹いてるから絶好の散歩日和だ。
僕の趣味の一つが村の中や近くの森なんかをぶらぶら歩く散歩だ。しばらくはみんなが身体の事を心配するから我慢してたけど、せっかく歩ける身体になったわけだからと周りの心配をよそに散歩している。そうして散歩を続けていたら何も言われなくなったから、たぶんだけど見守る感じになったみたい。
そうして何度も村の中や近場の森を歩いてると、いくつかお気に入りのコースができて、どれを歩くかは腰にさげる小袋の準備をして家を出る時に決めたり広場に着くまでに決めたりする。今日はどこに行こうかな。…………よし、今日は南の森に行こう。
広場に着くと朝早くに狩りや漁に出ていた狩人達がお互いの獲物を見せ合ったり、物々交換の交渉をしてる人達がいた。僕もいつか狩りや漁に参加してみたいけど、体力なんかを考えるといつになる事やら……。はぁ……、グチってもしょうがないから頭を切り替える。そうして広場を横切ってたら狩人の一人に話しかけられた。
「おう、ヤート。今日も散歩か?」
「こんにちは。そう、散歩」
「そうか、どこに行くんだ?」
「南の森に行こうかなって」
「南か……、お前ならわかってると思うが……」
「奥までは行かないよ。というか体力が無いから奥まで行けない」
「…………すまん、そうだったな」
「気にしないで、それじゃ」
「気をつけてな」
「うん、ありがとう」
広場から歩いて二十分くらいで村の南門に着く。やっぱり広場や東門に比べると静かだね。なんで東門付近がにぎやかかというと距離が関係しているみたいで、黒の
「こんにちは」
「白坊か」
「……そろそろ名前かせめてヤートって呼んでほしいんだけど」
「そうだな。白坊が成長したらな」
少しにらみながら相手に不機嫌そうに言ってみても、まるで気にされない。うぐぐ、自分に迫力無いのはわかってるけど頭をポンポンされながら言われるのは何か嫌だ。他の同年代に比べても明らかに、というか絶対なめられてる気がするな。村の中で言えば間違いなく僕が一番弱いわけだけど、それでも悔しいものは悔しい。……まあ、今は諦めるしかないか。こんな時は、さっさと散歩に行くべきだ。なにしろ今の僕は自由に歩き回れるんだからね。
「それじゃ」
「待て……」
「何?」
「今日は朝から森の雰囲気がおかしい。奥までは行くな」
「…………」
「おい」
広場でも同じ注意を受けたから、ついジッと見てしまった。そしたら門番のネリダさんが顔をしかめる。どうやら注意を真面目に聞いていないと思われたみたいだね。お説教で散歩の時間が減るのは嫌だから、いつも通りの受け答えをする事にした。
「僕の体力じゃ奥まで行けないから大丈夫」
「む……、そうだな」
「みんな僕の身体の事で、なんか気を使ってるよね? 僕は普通に歩けるから、こうして散歩に行くんだよ。じゃあね」
「それでも気をつけるんだぞ」
「わかった。ありがとう」
この村は
いつもの感じで、目に付いた食べられる果物や薬草を採取しながら森の中をぶらぶら歩く。この
そんな豊富な魔獣の素材や植物なんかを外の商人達は求めているみたいで、母さんによると
しばらく森の中を歩いていると森の中の雰囲気がおかしい事に気づく。なんか森が緊張している感じだ。その証拠に、いつもなら聞こえる鳥のさえずりが聞こえない。そういえば門番のネリダさんも森の中の雰囲気がおかしいと言っていた事を思い出して、すぐに戻り始めるべきか悩んだけど少し休憩する事にした。
そうして樹の根元に座り果物を食べていると嗅ぎなれた匂いが、それも前世で嗅ぎなれた匂いが漂ってきた。その匂いを嗅いでいたら、今では思い出す事もほとんどなくなった前世での闘病生活を思い出して、まだまだ前世での事を引きずっているなとおかしくなる。そして、それと同じくらい、もしかしたら命が尽きようとしているかもしれない「血」の匂いがしている源が気になった。
吸い寄せられるように茂みをかき分けて匂いの源へと近づくと見えてきたのは大ケガを負って衰弱している大型の魔獣だった。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想・評価・レビューなどもお待ちしています。
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