生まれてから 現状と楽しみ

 この世界に転生したわけだけど乳児期は恥ずかしかったな。僕っていう意識ははっきりしてても身体は乳児のままだから父さんや母さんにおんぶに抱っこの状態で、前世の闘病生活の中頃から看護師の人達にお風呂を入れてもらったりトイレの世話もしてもらってたのに、父さんと母さんに世話してもらうのはなんか恥ずかしかった。


 ……うん、思い出して身悶えてもしょうがないから現状確認をしよう。


 これまでにいろんな事がわかった。まずは僕の名前は「ヤーウェルト」で、みんなからはヤートって呼ばれてる。あと僕らは竜人族りゅうじんぞくっていう種族らしい。ぼんやりしていた視界がはっきりした時に初めて両親の顔を見ると、前世の漫画やアニメで見たリザードマンだったから驚いたよ。


 もう少し竜人族りゅうじんぞくの見た目を説明するなら、獣人族で例えるとわかりやすいかな。獣人族には見た目が二足歩行をしている動物のパターンと人間に動物の耳・鼻・尻尾なんかがついたパターンあって、竜人族りゅうじんぞくは前者で服を着てるツルッとした鱗を持つ二足歩行のトカゲって感じだ。あと当然顔も鱗に覆われてるわけだけど、けっこう表情豊かでたくさん笑いかけてくれるのは嬉しかった。


 次に僕の体質についてだ。両親や周りの人達の鱗は黒色だけど僕は白色。これは「欠色けっしょく」という現象で、前世で言う「色素欠乏症アルビノ」と同じだと思う。父さんと母さんが僕の枕元で話していた時の感じからするとハンデを背負ってるらしい。この事は初親達の集まりで父さんや母さんに抱かれながら見た同年代の子と自分を比べて、僕の身体の成長が遅いから実感できた。


 要するに僕は同年代と比べると、だいたい一回りくらい身体が小さくて体力もない。あと母乳を飲んでた時によく吐いてたから内臓も強くなくて、一度肉食を試してみたけど胃が受け付けなかった。この感じだと竜人族りゅうじんぞくの生に近い肉中心の食生活ができないだろうって事で今の僕の主食は果物や野草だ。僕の成長の遅い理由がよくわかるね。


 最後に魔力について。この世界には魔力があって、ある時に両親を見てたら何かつぶやいて指先から光を出した。それに驚いて声をあげると、僕の目の前で光の球を出して身体の周りでグルグル動かしたりしてくれたんだ。さすが異世界、魔法があるんだ!! って感動したよ。それで僕の魔力はといえば同年代の三割くらいで、あるにはあるけど強い魔法を使うのは難しいみたい。


 まとめると僕「ヤーウェルト」は、「欠色けっしょく」という体質で肉体的にも魔力的にも「同年代よりも弱い」。全種族中でも最上位の強さを誇る竜人族りゅうじんぞくの恩恵はまったくなく、普人族ふじんぞくと同じくらいだそうだ。


 どうやら両親や周りから見たら僕の現状はかなり悲惨な感じらしいけど、前世で重病人だった僕からすれば今の僕は間違いなく幸せだ。問題なく呼吸できて会話できて歩ける。……最高だね!!!!!!


 そんな僕が今何をしているかと言うと本を読んでいる。前世では病状が軽度の時は読めていたけど、病状がひどくなると体力がなくなりページをめくったり文字を目で追う事もできなくなって諦めた。そんな前世で諦めた事の一つである読書ができると気づいてからは、書庫があるヘカテ爺さんの家で毎日のように読んでいる。


 この世界の文字は地球でいうローマ字の筆記体やアラビア文字のようなミミズがはったような感じで初めの内は本当にミミズがはったようにしか見えなかったけど、一文字一文字教えてもらったら割と簡単に文章が読めるようになった。やっぱり子供の頃の方が頭が柔らかいからすぐに覚えられるっていうのは本当かもしれないね。


 勉強が嫌いっていう人は多いと思うけど、前世でまともに学校にも行けなかった僕からすると、何かを勉強して新しい事を知れるのは本当に楽しいよ。こっちに生まれて前世で出来なかった色んな事ができて楽しいけど、一番嬉しくて楽しい事が別にある。それは…………。




「おーい、ヤートいるか? って、やっぱりここにいたな」

「兄さん、どうしたの?」

「もうすぐ日が暮れるから迎えに来た」

「そうなんだ。でも、いくら身体が弱くても一人でも帰れるよ」

「ヤートは、本を読んでると時間を忘れるでしょ」

「姉さんまでひどい……」

「そうやってすねてないで帰るわよ」

「……うん」


 僕は読んでいた本を片付けヘカテ爺さんにあいさつをしてから兄さんと姉さんといっしょに家路についた。




「ただいま!!」

「ガル、お帰りなさい。今日も楽しかった?」

「楽しかったぜ!!」

「そう、夕食の時に聞かせてね。マイネもお帰りなさい」

「母さん、ただいま」

「あなたも、今日あった事を聞かせてね」

「わかったわ」

「ヤート、お帰りなさい」

「ただいま」

「今日も、本を読んでたのかしら?」

「そうだよ」

「じゃあ、読んだ本の内容を教えてね」

「うん」


 「ただいま」を言って家に入る。そして夕食の時に家族みんなで今日あった事を話す。すごく簡単で当たり前の事だけど、これが一番嬉しくて楽しい。


 はっきり言って、今の僕は肉体的にも魔力的にも恵まれてないけど、普通に呼吸ができて普通に動けて前世で諦めていた事もできる。そして何より家族団らんができる。こっちに生まれてからは本当に毎日楽しい事だらけだよ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

◎後書き

最後まで読んでいただきありがとうございます。


注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。


感想・評価・レビューなどもお待ちしています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る