ep.21 過去と

私は昔から、体調を崩す事が多かった。


熱と共に吐き気を訴え、夜には酷い倦怠感が襲う。

それは朝日が登る頃になれば自然と治った。


子供のうちはよく風邪をひくものだからと、母が気持ち悪さと熱にうなされる中で、優しく手を握っていてくれたのを今でも覚えている。


父はその度に果物を採っては私に言う。


風邪は治り始めにも注意しないと駄目だぞ、果物を食べて栄養を摂るとすぐ元気になるぞ、と。


そんな両親に育てられ、成長していくにつれ体調を崩す事も徐々に減っていった。


やはり子供だから風邪もひきやすかったのだと、そんな事を思った私は早く大人になりたかった。



こうして成長していき、やがて16になった頃。


日課の森の探索を終えた私は村へと帰ろうとして。



「なに………これ…………」


大量の魔物に襲われ、彼方此方から火の手が上がる変わり果てた村を見た。




気が付けば私は家へとまっすぐ走りだしていて。


私よりも、目の前にある餌へと食らいつく事に集中している魔物達を超えて、家があった場所へと辿り着く。




地獄を通り抜けた先でも、地獄なんてものは終わらなかった。




力無く横たわる母を、肉を喰らい、父だった物は、庭で育てていた果実を付ける木に打ち付けられ、シミになっていた。



そこから先はよく覚えていない。



かろうじて覚えているのは、私に気が付き母だった物を置いて襲い掛かる魔物の姿と。



自分以外の物が全て消え去っていた村の跡で、一人座り込んでいた事だけだった。



やがて、村で起きた大規模な魔力の爆発を確認しに来たという事でこちらに来た騎士に保護された。



どうやら、私は魔力の爆発を引き起こし全てを吹き飛ばしていたらしい。


加えて、周囲の魔力を強制的に吸い上げる体質である事。

それも、自分の限界以上に。


幼少期の不調は魔力酔いと、無意識下で魔力を貯めておく器官の急成長によるものだと聞かされた。



そして、そのまま成長すればやがて魔力を制御出来なくなり、魔力による大災害を起こして死んでしまうことも。



両親の死に加え、私自身もやがて災害を引き起こす存在だと伝えられた私はただ恐怖した。


だから、一人旅をする事にした。


世界を巡り、この体質をなんとかする方法を。



その過程で、有り余る魔力を使い強引に肉体の成長を止めた。


副作用として髪の色が変わったが、どうでもよかった。



そうして様々な書物を集め、様々な話を聞き漁りながら対抗策を思いつく。


体質により集めた魔力を、魔力で打ち消せないかと。


その為に様々な属性の魔力を掻き集め、試しては失敗を繰り返し。


気が付けば90年程経っていた。

周りが年老いて亡くなっていく中で、やがて疲れ切っている自分に気が付く。


膨大な魔力を持つが故に死を許されず、それでもなおこの体質を何とかしようと様々な事を始めて幾度となく失敗を繰り返す。


そして幾度かの失敗の後、数十年程前に来た王都へと立ち寄ると、未来へと希望を持つ青年に出会った。


それでも自信が無さそうに、緊張しているその姿は不思議と目が離せなくて。


自然と彼の事を応援していた。



そんな中、魔族の強襲により真っ先に飛び出した彼を助けに行き、彼が不思議な魔力を使ったことに気が付く。



その瞬間、私は歓喜した。


もしかしたら、これで私の体質はどうにか出来るかもしれない、と。


その後、彼から魔力を拝借し試すも全てが徒労に終わった。






もう、何もかもがどうでもよくなった。






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