ep.20 記憶

「………ルシエラさんっ!!」



目の前で荒い呼吸を繰り返しながら蹲るルシエラの姿を見たエクスは衝動的に駆け出そうとするが


「っ!来ないでくれ!」


ルシエラから制止が飛び、動きを止める。


「………どうしたんですか!もしかして怪我を……」



「私は大丈夫、だから、っ!早くこの森から出るんだ!」


ルシエラが震える指で指し示した先は昨日と同じ霧に包まれていたものの、圧迫感らしきものは一切無かった。


「でも、ルシエラさんが!」


「もう、私に構わないでくれ!」


叫んだルシエラは自分が言った事の意味を理解し、ハッと顔を上げる。


そこには、見る者を安心させるような表情を浮かべたエクスの姿。


「……それでも、苦しんでるルシエラさんを置いていくことなんて、出来ないから」



「あ………」


気が付くとルシエラのすぐ近くまでエクスは近付いていた。


「………大丈夫だから、僕に話して。ルシエラさんが昨日、僕の話を聴いてくれたように、僕も貴女の話が聴きたいんだ」



片膝を付き、手を差し伸べる。


その手をルシエラは取ろうとし─────



「……ぐぅっ!!!」


バチりと、魔力がエクスを弾き飛ばすとそのまま体を強く樹に打ち付けた。


その瞬間、ルシエラの表情は絶望に染まった。



「………ちがう、んだ……、ごめんなさい………!ごめんなさい……っ!私は……!」


ふらりと立ち上がるとルシエラは森の奥へと逃げるように消えていく。


「まっ……ルシエラさ………」


霞む視界と薄れゆく意識の中で、その背中だけが強く残っていた。










『ねえ、おかあさん…何だか気持ち悪い…』


エクスは目の前に映る母娘を眺めていた。


(この子は……誰だろう……)


自らの身体を眺めようと視線を足元へと向けるが、そこには何も無い。


(意識だけがこの景色を見てるのかな………?なんだか不思議だ……)


『あら、風邪でも引いたのかしら…熱は無いようだけど……』


母親らしき人物が子供寝かしつけていると、場面が切り替わる。



次に見えた景色は、先程よりも成長し背の高くなった小麦色の髪の少女の姿。


『今日は何だか調子がいいみたい!外で遊んでくる!』


心の底から嬉しそうな笑顔を向ける少女の姿を見たエクスは既視感を覚えた。


(この子……どこかで……)



ルシエラが扉を開け、外へと駆けていくと母親は顔を出し声をかける。



『気を付けて行きなさい!ルシエラ!』



『わかってるー!いってきまーす!」


(…………!?)



エクスは駆けて行った少女へと振り返る。


(……髪の色も違うし、喋り方も違う……!でも………じゃあ此処は………!)



────ルシエラさんの記憶の中……!




そして、再び景色が切り替わる。


エクスの視界に入ったのは、ルシエラが涙を流し崩れ落ちる瞬間だった。

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