ep.19 ルシエラを探して

ティエラが魔力に気付き、目を覚ます少し前。


エクスは女神と話しを終え目を覚ました。

少し暗い、部屋の窓越しに外を眺めると霧の満ちた森は昨晩と違い仄かに明るい。


(そろそろ、朝なのかな……出る準備をしないと…)


掛けていた毛布から抜け出すと、部屋の中をヒヤリとした空気が包んでいた。


(さむい……やっぱり朝は冷えるなぁ…)


起こさないようにそろりと動き出し、ベッドの方へと視線をやって漸く気が付く。


「……ルシエラ、さん………?」


ベッドの上には、誰も居なかった。



「どこかに、居るのかな……?無言で出て行くのは失礼だし……」


数巡、悩むと探しに行く事を決める。



部屋を出ると他の部屋の中を探し、時に声を掛けながら進むが、見当たらない。


廊下へと出たエクスは、昨晩の地下室の存在を思い出す。


「……彼処かな……?」


そう思い地下室の扉の前まで来ると数回、ノックをする。


「………ルシエラさん?居ますか?」



返事は、無い。



「……失礼、します」


少し重い、金属製のノブに手を掛けると痛みにも似た冷たさを感じた。



「………居な、い……?」


扉を開け、部屋を見るが大量に積み上げられた本と紙以外は何も無かった。


辺りを見回しながら、少し広い部屋を隈無く探している途中で、落ちている一枚の紙が目に付く。


「こんなに沢山、何を書いてるんだろう……?」


疑問を感じ手に取ろうとする。


「……いつっ!何か、刺さったのかな……?


紙を取ろうとしたエクスは指先に痛みを感じ腕を引っ込めると、痛みの走る部分を確認した。


血の滲む指先を親指で拭うと切り傷のようなものが出来ている。


「……紙で切った、訳じゃなさそうかな……?ガラス………?」


落ちている紙の周りを見るが、暗さが勝りあまり鮮明には見えなかった。


「えーと、たしか……『道行く道を照らせ、魂と精神に安寧を』《灯火トーチ》」


指先に淡い光を灯らせると、少し魔力に違和感を感じ取る。


(……何だか魔力が他へと流れてく………?)


しかし問題なく魔法が発動している事を確かめると、これ以上気に止めることも無く紙の周りをもう一度見る。

辺りにはガラスの破片が散らばっていた。

エクスは恐らくこれで切ったのだろうとアタリをつける。



「それにしても、こんなに破片が……危ない気がする……」


そして、ガラスの破片から紙へと視線を移す。



「………魔力吸収体質についての考察………?」


手に取ろうとし、異常な魔力の揺らぎを感じ取り振り返る。


「…今の……?」


上の方から感じ取ったエクスはここが地下だという事を思い出し、地下室から出た。


「……家、じゃないのか。外……?」



先程感じた魔力の揺らぎは、今は落ち着いているものの非常に不安定に思えた。


「誰かが魔法を……?でも、そんな感じじゃない……」


感じた方向へと歩いて行くとやがて玄関へと来てしまう。

しかし、未だに感じ取れる魔力はこの先────外に存在していた。



「………確認しなきゃ……!」


扉に手を掛け、外へと踏み出すと




「─────ルシエラさんっ!!?」


「……え、くす。くん……?」



荒い息を吐きながら、蹲るルシエラの姿がそこにあった。

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