ep.22 きっと誰かが手を差し伸べてくれる

失意の底に居た私の前に姿を現したのは、不思議な魔力を持つ彼。


ほんの数日、会わなかっただけだった筈のその姿は以前よりも少し逞しくなっていた。


しかし、彼は何かに取り憑かれているようで敵意をこちらにぶつけてくる。


咄嗟に周囲の魔力に指向性を持たせ、空間を無理矢理固定し、観察をしていると靄のようなモノが身体から吹き出した。


(これが原因か)


そう判断すると、虚空の穴を開きそのまま呑み込む。


不思議と光の魔力を併せて他の魔法を発動すると普段よりも扱い易いことが分かっていた。


それも、光の魔力が無くなった今ではもう終わりだが。



後に残されたのは、気を失っているエクス君と、私だけだった。



最初、彼を置いて行こうと思った。


もう誰かと関わりたくなかったからだ。

誰かと深く関わってしまえば、生への執着が出来てしまう。


私にそんな事許されるはずがないのに。

やがて災害を齎す存在になるのに。



でも、苦しそうに魘される姿は何処かで見た姿と重なって。



気が付けば自分に言い訳を重ね、彼を家へと招き入れてしまった。






やがて彼が起き出し、私を見つける。


久々の会話で、少し心が躍った。

彼の反応の一つ一つが何処かくすぐったくて、一晩だけだから、と欲をかく。



話していく内に、彼が勇者である事を知った。

少し驚いたが、彼はそれが苦しそうで。


先程から感じていた既視感を押し込め、彼の話を聴いていく。



そんな彼の悩みに、私が出せる答えなんてものは持ち合わせていなかった。



だから、彼が眠った後で髪を優しく撫ぜる事しか出来ない。


どうか、ここに居る間だけでも安らげる様に。





そうしている間に、何故か私の魔力が異常な迄に増大した。


同時に、吐き気が込み上げる。


「こ………れ……は!!?」



魔力の高まりを感じ、いつかの幼い自分の姿を思い出す。



感情と共に、魔力を暴発させたあの時を。


巻き込まない様に、家を出た所で崩れ落ちる。




脳の中をかき混ぜられた様な、そんな感覚に囚われる。




「───!!?」


もはや、言葉を音としか認識出来ない程の中で、自分に声を掛けたであろう人の姿を確認する。



────あぁ、やはり君だよね。


この森に居るのはきっと、君と私だけだから。




だから、必死に遠ざけようとした。

何を言っているのか、自分でも理解出来なくても、とにかく離れる様に。



それでも彼は私に近付く。


「────もう、私に構わないでくれ!」



こんな時に、言いたくなかった私の本当の言葉だけが、やけに明瞭に聴こえた。


彼は悪くないのに。


そう思い、顔を上げると。



彼は優しい笑顔を浮かべていた。



「……それでも、苦しんでいるルシエラさんを置いていくことなんて、出来ないから」



世界から、音だけが消えた様な。そんな錯覚に陥る。



彼は私の近くで膝を付き、手を差し伸べる。


その姿は、幼い私がずっと心で望んでいた姿そのもので。



────いつか、私を助けに来てくれる人が居る。



そんな事を夢に見ながら、諦めていた。



それが今、こんな形で叶おうとしている。



だから私はその手を取ろうとし




「……ぐぅっ!!!」


私の身に溢れ出る魔力がそれを拒んだ時。





私は、ゆめの終わりを悟った。

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