第3章 孤独の魔女

ep.1 まともな

「そろそろ夜になりますし、この辺りで野営の準備でもしましょうか」


エクス達が迷宮での戦いを終え、街を出てから既に2日程が経過しようとしていた。

馬車に乗せてもらおうと言う案はあったが、一行が向かおうとしている村は道も整備おらず、余り良い案とは言えなかった。


結果として徒歩で向かう事になったのだが、野営に慣れていない者はおらず、大した苦にならなかったのが幸いであったとトーフェはこっそり安堵している。


「ならば俺は薪になるものを集めてこよう。童子とティエラは寝床の用意を任せるが、良いか?」


「分かりました。早く用意を終わらせて手伝いますよ」


そんな事を言いながらエクスは野営の準備を始めると、ティエラも後へ続く。


「薪が来たら私が料理しても良いですか?」


作業をしながら、ティエラはここ最近で食べた料理を思い出していた。


『あの、このお肉の山は……』


『飯だ。生憎、焼くか斬るしか頭に無くてな』


そんな会話をしながら山のように焼かれた2区の山を消化していく。


朝も、昼も、夜も。


食事は焼いた肉のみであった。


またある時は。


『ご飯出来たよ!』


そう言いながらエクスが運んで来たのは、道中で採取した大量の果実。


そして────やはり肉。



『えっと……』


『流石にお肉だけだと飽きちゃうかも知れないし、果実も取ってたんだ!』


そうだけど違う!という叫びを呑み込んで、黙々と胃袋へと詰め込む。


確かに歩き詰めであったし、食わなければならないと言うのも分かる。

分かるがしかし。



(─────流石にこの2日でお肉を摂りすぎです!!!!)


魔王を討伐する者の一人として、わがままを言うつもりは無い。


しかし、それでもティエラは女の子であった。


旅でいずれついてしまうであろう筋肉はしょうがないにしても、流石に太る気は無かったのだ。


それに、肉ばかりで栄養を偏らせていたらいずれ来る魔王との戦いの前に身体に異常をきたすきたすだろう、という理屈の上での理由もあるのだ。



────太る、という事は女子の天敵だ。そう思いながら、エクスへと提案したのであった。





トーフェが薪を集め終え、野営地へと戻ると丁度準備が終わったのかエクス達が声を掛ける。


「あ、トーフェさんありがとうございます!」


「ありがとうございます!早速ご飯作りますね!」


エクスに続くように感謝を述べたティエラはすかさず料理の準備に取り掛かった。


「……なぁ、童子。何故ティエラはあんなにも燃えている?」


「さぁ………?今日は自分が作りたいって…」



そんな事を言う男二人に、年頃の女性の気持ちなど分かるはずも無く。



(今日こそはまともな料理を!!)



ティエラは恐ろしい速度で料理を作っていくのであった。







それから一時間程で料理を完成させると、器に盛り付ける。



「お待たせしました!出来ましたよー!」



手伝おうとしたが、鬼気迫る表情で断られた二人は自分の武器の手入れをしたり、村への道を確認するなどをして時間を潰していた。


「ありがとうございます………って、いい匂いだね!美味しそう!」


簡易テーブルの上に並べられたのは山菜の盛り合わせに、野菜スープ、街で購入したパンに肉を挟んだ物。


これらを一人で、一時間で作り上げる事に素直に驚くエクス。


「む、豪勢だな。だが、食材は持つのか?」


トーフェが疑問に思った事を聞くと、ティエラは胸を張って答えた。


「それに関しても殆ど問題ありません。買い込んだ食材の1割も使ってませんから。パンと山菜に加えた調味料以外は殆ど皆さんが取ってきたものですよ!」


そう言うとトーフェは素直に関心する。



「ほう……それでこの量か……凄いな…」


肉に関してはトーフェが狩った魔物を、スープはその骨で出汁を取った物。


山菜もエクスが取ってきたものに加え、辺りに生えていたものも入れたのである。


買い込んだ物の中で使ったものは、ドレッシング用に使った少々の油と、スープの味を整える為に使った塩、それとパンのみ。




まともな食事を渇望した故の力作であった。


三人で食事に舌鼓を打つ。



(あぁ……ようやく普通の食事が……)


ほろりと涙を流す。


今後、ティエラは自分が食事当番する事を決めた瞬間である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る