ep.16 コア戦

─────走る。走る。


リッチが庇うように飛び出して来た、その背の奥にある物を壊しにエクスは。悲しみを、終わらせる為に、走る。



(ティエラさんがリッチを抑えている間にっ………!)


確証は、無かった。

それでも、リッチが守っていたあの珠を壊せば終わる。そう信じて、加速する。


瞬間、一際黒く輝いたと同時に珠から黒い魔力が放たれる。


「っ…!?」


咄嗟に回避を選択しようとして、踏み止まると剣を構え、流す。


剣によって軌道を逸らされた魔力弾は結界にぶつかり、霧散する。

エクスはリッチを抑えているティエラをちらりと確認し、再び走り出した。


しかし、行く手を遮る様に珠の周りに闇の魔力で形成された弾が漂う。


『────!』


一際輝き、魔力弾が再びエクスへと放たれる。

エクスは走りながら剣を振るい、切り落とし、流しながら進んでいく。


「くっ!弾の数が増えてきたっ………!」


近付くにつれ、エクスに向かって放たれる弾は徐々に数を増やし、威力を上げ、様々な角度から撃ち込まれる。


既に威力は、剣で流しても手が痺れを訴える程にまで上昇していた。


それでいて、全ての弾を使い切るわけでも無く、1発ずつ時間差で放っていた。




まるでどこまで耐えられるのか、確認する様に。



「くっ、このままじゃ…………!?」


直後、視界が弾で埋め尽くされ、その隙間にエクスは見た。


勝利を確信したのか、弾の生成が一瞬だけ止んでいるのを。何処か笑っているように淡く光るその珠を。


「な、めるなぁぁぁぁぁァァァァ!!」


エクスの叫びに呼応するかのように光の魔力が爆発的に輝く。


「アァァァァァァァ!!!」


剣に光の魔力を乗せ、一閃を放つ。


『────!!』


光の奔流が珠へと迫るが、珠は闇の魔力を放出し光を遮る。

魔力同士がぶつかりせめぎ合う。が、珠は更に黒く輝くと闇の魔力が強くなっていき、光の魔力が徐々に押されていく。


(それでも……っ!!)


エクスの脳裏に先程のティエラの表情が浮かび、民の不安を憂う、フレンツェの姿が浮かぶ。


(必ず、止めるって決めたんだ!!)


光の魔力を剣に乗せ、更に一閃を放つ。

同時に魔力が体から一気に抜け出し、酷い虚脱感に襲われる。


それでも、膝はつかなかった。


終わらせる。その意思の元に。


「い、けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」



放った一閃が闇の魔力にぶつかり、全てを呑み込む。


『───────!!!!!!!』


光に呑まれたその先で、黒い光が溶けるように消え去っていく。

やがて光が収まると、紫色の珠は輝きを失っていた。



「や、ったのか……?」


エクスが珠に近付き、破壊しようと剣を振りかぶろうとした瞬間。


パキン、と軽い音を立てながら割れる。

『───────!!!!!!』


同時に、エクスの頭の中に響く、硝子を引っ掻く音の様な悲鳴。


「うァッ!?」


強烈な不快感に剣を落とし膝を付くが、悲鳴は一瞬で終わる。


「い、今のは………?………それよりっ!」


ティエラの事を思い出し、振り返る。





既に、決着は付いていた。


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