ep.17 穿つ一撃

『君は避ける時に無駄に力を入れ過ぎるんだ。だから動きが硬くなる』


魔力を込められて作られた弾と接触し、吹き飛ばされる。


『あうっ!』


これで何度目だろうか。

訓練を始めてから一月程はまともに避ける事すら出来なかった。

魔力の弾に吹き飛ばされ、思うように動けない悔しさと、期待に応える事の出来ない自分に嫌気がさす。


『………痛いのは嫌だろう。怖いだろう』


その言葉に頷く。


『ならば慣れなさい。痛みに。痛みに慣れない様に慣れなさい』



言葉の意味が、分からなかった。


『痛いのは怖い事です。辛い事です。それでも痛みに怯えずに向き合いなさい。これが痛みに慣れるという事です』


なんとなくわかる気がして、曖昧に頷く。


『それでいて、『痛みを我慢すればいい、どうせ治る』と思わない事です。怪我をする事に慣れない様にしなさい』


魔力を霧散させ、吹き飛ばされた私に手を差し伸べる。


『怪我をする事に慣れた者は、私の知る限り全て死にました。……人は案外、自分の限界に気付けない物なんです』


少しだけ悲しそうな顔をして、その後何時もの笑顔を浮かべて頭を撫でてくれました。


『お疲れ様でした。昨日よりも上達してますよ。流石僕の弟子だね』


その言葉に私は何時も嬉しくなって、明日も頑張ろうって思えた。






『オオッ!!』


視認する事すら出来ない速度で飛ばされる魔力の弾を、風を切り裂く音を聴き、肌で風を感じ、体で魔力を感じ、避ける。

避けられた事に油断する事なく身体中に神経を張り巡らせ、唯ひたすらに避け、時に流し、時に魔力の弾をぶつけ、相殺しながら距離を詰める。


(痛いのは怖い事だ)


リッチと戦い初めてから時間は2分程しか経過していないにも関わらず、ティエラの息は上がっていた。


ここ数日は安らぐ事も出来ず、休む事すら出来なかった。

体力は限界に近い。その上で全力で相手をしているのだから。


「ッ………!」


荒い呼吸を繰り返しながら、少しずつ進む。

思う様に息を吸えない自分が唯ひたすらに恨めしい。


(お願いだからっ………!これで最後だから………!だから………っ!)


もう少しだけ、頑張って。私の体。



暗示を掛けるように、繰り返す。



「っ!」


目の前に飛んでくる魔力の弾を、頭を傾けて躱し魔力の弾を形成しては撃ち落とし、流す。


リッチまでの距離は、もうあまり無かった。

故に先程よりも速く感じる魔力の弾に圧倒される。


「あ、と。すこしっ………!」


それでも歩みを止めることなく、進み続ける。


『オォォォォォォォォォォォォォ!!』


咆哮と共に、放たれる魔力の弾の数が増える。

これで、最後だと言わんばかりに。


だから



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


少女は、覚悟を決める。


避ける事が出来なければ、撃ち落とせなければ、今ここで死ぬ。


最後の力を振り絞り、我武者羅に流し、撃ち落とし、躱す。


そうして進んで後少しの所で。


「あっ………」


力が抜ける。


目前に迫る魔力の弾がやけに遅く感じた。

(避けれな………)


瞬間、強い輝きと共に思い出す。


『君は避ける時に────』


思い出した直後、敢えて全身の力を抜く。

右側に倒れ込む様に力を抜き、目前に迫る魔力の弾の軌道上から逃げるように。


『────無駄に力を入れ過ぎるんだ』

避けた弾を確認する事なく、脚に力を込め踏み出す。


「──────はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


持っていた杖をリッチに向け、魔力の弾を放つ。




その距離は、零に等しかった。







ティエラの放った魔力の弾が、リッチの胸を穿つ。


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