ep.14 幼いわたしの夢
エクスは違和感を感じていた。
斬りつける度に、黒い魔力が漏れ出す度に何処か優しい魔力がリッチの体から感じている。
それはまるで闇の魔力から解放されているような─────
「オオッ!」
リッチが小さく吼える。それは先程までと違う、意思の感じる声だった。
同時に、リッチの両手に魔力が集まる。
(来るっ!)
リッチが純粋な魔力だけを集め、弾にして打ち出すのをエクスは殺気と魔力の気配を頼りに躱す。
打ち出された弾の速度はもはや視認できる速度ではない。
(さっきの、床が抉れるように消えた攻撃はこれだったのか!!)
躱しながら、先程の見えなかった攻撃にアタリをつける。
弾が撃ち出され、躱し、避けた場所を予測していたかの様に次の弾が飛んでくる。
それを躱すが、行動を制限する様に次々と飛んでくる魔力の弾の数に圧倒され、遂に────
(避けきれな……!)
瞬間、魔力の殺気が消える。
「え……」
リッチから殺傷力を持って放たれていた筈の弾幕が突如として、変わる。
「あぐっ!」
それは下腹部に当たり、エクスの体を容易に吹き飛ばす。
「大丈夫ですか!!?」
心配して駆け寄ろうとするティエラを、エクスは手で制止した。
吹き飛ばされたエクスはすぐに立ち上がる。
「大丈夫……。吹き飛ばされただけでそこまでダメージは無かったから。それより……」
エクスは、リッチを見る。
その表情は辛そうで、とても悲しんでいるようにティエラには見えた。
「あれは……ううん。あの人は、君を待ってる。そんな気がする」
その言葉に、ティエラはハッとした表情になり、リッチへと視線を向ける。
リッチは吹き飛ばしたエクスを追撃をせず、静かにティエラを見て佇んでいた。
「わ、たし……を?」
予感は、あった。
リッチがエクスにダメージを受け、自分を見たあの時から、何かが変わったのを仄かに感じていた。
そして、先程のエクスとの戦いで見せたあの魔力の弾による攻撃。
そんな筈はないと、そんな事を思いながら蓋をしていた期待が溢れ出す。
「君の師匠は、もしかしたら────」
「いえ、言わないでください」
言葉を遮るティエラに、エクスはリッチからティエラへと、視線を向ける。
その表情は泣きそうでいて、無理に笑顔を作っているようで。
「わかり、ましたから」
声が、震えていた。
ティエラが立ち上がると、リッチへと向かう。
「待っていて、くれたんですよね?師匠。待たせてごめんなさい」
リッチへと向かうティエラの背中が、エクスにはやけに眩しく感じた。
「エクスさん!私が────」
そこで言葉に詰まる。
胸を過ぎる思い出が、言葉を止める。
それでも、もう、最後だから。
「──っ!私が、リッチを、抑えます!だから、あの珠を!師匠を解放してくださいっ!!!」
その言葉に、エクスは覚悟を決める。
────せめて、安らかな救いをあの人に!!
体の奥から、力が湧き上がる。光の魔力が、体から立ち上る。
「………わかった!任せる!」
言葉と共に、一気に駆け出す。
「……オオッ!」
飛び込んでくるエクスの姿を捉えたリッチは、反射的に飛びかかろうとし、瞬間、飛んでくる魔力の弾を回避する。
「……最後に、稽古をつけてくれるんですよね?師匠?」
杖を構え、リッチの前へと立つティエラ。
「よろしく、お願いします……っ!」
その言葉にリッチは一瞬動きを止め、吼える。
「オォォォォォ!!」
リッチの両手に魔力が集まり、周囲には魔力の弾が漂う。
その数は、先程エクスに見せた比では無かった。
それでもティエラは、心の底で安らいでいた。
魔力の弾が放たれるのを、殺気で、気配で、体で感じる風で軌道を読み、躱し、或いは杖で受け流す。
数百、数千と訓練した師匠の稽古と同じ。
『軌道を読みなさい。どうしても躱せないのなら、最低限の力で受け流しなさい』
何度も吹き飛ばされて、怒られて、痛い思いをして。それでも最後には
『頑張りましたね。昨日よりもとっても上手でしたよ』
笑顔で、頭を撫でて褒めてくれた。
魔力の弾を避けながら、ティエラは涙で視界が滲まないように、堪える。
全ては
『ししょう!きょうこそはぜんぶよけてみせます!!!おねがいします!!』
『ええ…?今日もですか?本当に出来るんですか?』
『ほんとうです!ぜんぶよけてししょうをこえるのがゆめですからね!!!』
幼いながらに誓った夢を、叶える為に。
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