ep.13 リッチ戦
「─────ぐっ!?」
後方に居たはずのトーフェから、くぐもった様な声が聴こえた。
「トーフェさん!?」
驚き、振り返るエクスとティエラの視線の先には、吹き飛ばされるトーフェの姿。
吹き飛ばされるトーフェは辛うじて鞘で防いでいたのが見えた。
思わず近付寄ろうとし────
黒い壁が周囲を包み込む。
(結界!?なんっ─────!?)
殺気を感じ、大きく横に飛ぶ。
直後、先程までいた地面が抉られるように消える。
消え去る地面から正面へと視界を移すと、こちらに手を翳す骸骨の姿。
「あれは……リッチ、なのか?」
通常のリッチは襤褸切れの外套を纏い、体から黒い魔力を垂れ流している姿であった。
しかし─────
(仄かに白い魔力が混じって、る?)
垂れ流している魔力の一部が、白く染まっているのが確認できた。
「あ、ああ…………!」
声を震わせ、力なく座り込むティエラに気付いたリッチは顔を向けた。
(まずいっ!)
リッチがティエラに手を差し伸べるように、優しく手を伸ばすと、魔力を込め始める。
『エアルフ!!!』
加速し、ティエラの元へと向かう。
「ま、にあえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
濃密な魔力がリッチの手元へと集まり、黒く揺らめく。
「し、しょ………う?」
一瞬、魔力が弱まる。
(弱まった!?今なら間に合う!)
滑り込むようにリッチとティエラの間に入ると、そのままティエラを抱え離脱する。
「や、いやっ!ししょう!なんで!!」
取り乱した様にリッチに手を伸ばすティエラの言葉に、エクスはリッチへと振り向く。
(白い魔力が増えてる……?まさか……!)
リッチは考え込むかのように、何かに抗うかのように固まっていた。
距離を取ると、エクスはティエラを下ろす。
「もしかして、あの人は師匠だった人なの、か?」
悲しそうにリッチを眺めるティエラに、問う。
「わかりま、せん。けど、あの魔力は、師匠のなんです。何かが混ざってるけど、ほんとに、師匠の……」
瞬間、エクスは嫌な気配が強くなったのを感じた。
その気配に応じる様にリッチが咆哮を上げた。
「オォォォォォ!!!!ォォオオォォォォオ!!!!」
先程までせめぎ合うように揺蕩っていた白い魔力が、黒い魔力に呑まれる。
「これは……!もしかして!」
リッチの咆哮する先、その奥にある玉座のような場所に黒く光る、人の頭ほどの珠がそこにあった。それが強く輝く度に、嫌な気配が比例して強くなる。
そして、呼応するように咆哮を上げるリッチ。
「あの珠が、自我を消してるのか!?」
剣を抜き放ち、珠の元へと駆け出す。
「なら、あれを壊せば───ッ!!」
しかし、珠を護るように行く手を阻むリッチ。
「オオォォォォ!」
リッチが咆哮に魔力を乗せ、放つ。
先程まで動いていた体が、一瞬硬直する。
「くっ!やっぱりハウリングも使えるのか!」
動かない体に、邪魔な者を振り払うかのように腕を振るうリッチ。
「ぐっ、くそっ!」
ぶつかる寸前に硬直が解け、ギリギリで躱すと斬りつける。
「アァァァ!」
体を傷をつけるが、もう1本の腕で吹き飛ばされる。
「あぐっ!」
吹き飛ばされた先には、ティエラの姿。
「く、そ!」
腰に掛けていた鞘を使い、地面を叩くと軌道を逸らす。
そして、結界の壁に叩き付けられる。
「がっ!……ま、だぁぁぁぁぁぁ!!」
叩き付けられた衝撃で息が止まるが、それでも尚向かう。
ここで勝たなければ、皆死ぬ。その事実を背負って。
ティエラは戦いを見ていた────否。
自らの師の成れの果てを見ていた。
記憶に深く根差した、癒すために優しい魔力を使い、仲間を支える為に力強い魔力を振るう師の姿が。
目の前で人を殺す為に、冷たい闇の魔力を使い
、敵を効率良く殺す為におぞましい咆哮に魔力を乗せる姿へと変わっている。
なんで、なんでこんな事が。
ぐるぐると回る思考に気分が悪くなる。
エクスが、その乾涸びた姿に剣を振るい、傷ができる度に黒い魔力が傷口から吹き出す。
もう、お前の師は人ではない。そんなことを突き付ける様に。
眺め、リッチの体から黒い魔力が噴き出して行く。徐々に動きが悪くなって行くのがティエラにはわかった。
それでも脅威的な威力を持った攻撃と、魔力を乗せた咆哮で動きを止められ、苦戦を強いられていたが、それも時間の問題であった。
このまま続けば、勝つのはエクスだ。
咆哮に乗せられる魔力は減少し、威力のあった一撃は受け流せる程に弱っていた。
「はあっ!!!」
エクスが声と共に、一閃。今までの攻撃の中で、一番のダメージがリッチを襲った。
「オォォォォォ!!」
悲鳴と共に腕を振るうリッチに、距離を取るエクス。
リッチが顔をティエラの方へ向ける。
(え………?)
そんなこと、ある訳ないのに。
だって師匠は、私を庇って死んだのに。
なのに─────
こっちを見て、優しく微笑んだ。
そんな、気がした。
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