ep.3 領主と霧と塔

老年の男性────フレンツェは、優しい笑みを浮かべる。


「宜しければおかけになって下さい。茶も用意させましょう」


そう言うと、傍に控えてる女中に頼む。


女中がぺこりとお辞儀をして部屋から出ていく。


「案内役の方もありがとう、宜しければ別室で少しくつろいでくれ。なに、少しくらい休んでも罰は当たらないはずだからね」


そう言うと兵士もありがとうございます、と他の女中に連れられて部屋を出ていく。


「……さて、王からの手紙、拝読させていただきました」


そう言うとフレンツェは姿勢を正す。


「ありがとうございます。勇者を引き受けてくださって、言葉もありません……!」


深々と頭を下げた。


「か、顔を上げてください。フレンツェ様」


エクスが慌てる。


「少しでもお役に立てるよう、助力は惜しまないつもりです…」


そう言うとフレンツェは顔を上げた。



「それで、連絡のつかなくなったという方なのですが……心当たりはございます」


「心当たり………ですか?」


「はい。実は、ここ最近塔の中から魔物が出てくる、という話がこの街では噂になっておるのです」


「塔から、魔物……ですか」


エクスは思案しながら話を聞く。


「はいそれで、この街にも何人か行方が分から無くなった者が数名いるのです。それで、話を聞いていくと、消えた者は皆『塔にいかなきゃ……』と言っていたと……」


「僕等が捜している人もその塔に言った可能性が高いと……そういう事ですね?」


エクスが聞くと、フレンツェは頷く。


「それで、その塔は何処にあるんですか?」


「それが……………」






エクスとトーフェは宿で休んでいた。


「うーん、まったく手掛かり無いですね……」


困ったように声を上げるエクスに、トーフェは同意する。


「あぁ、しかも皆突然消えているときた。探しようがない。人探しの前に、建物探さないと行けないとはな」


エクスはベッドへと倒れ込むと、枕を抱える。


「明日もまた聴き込みですかね……」


トーフェが武器を取り出し、整備を始める。


「取り敢えず明日は南側の方で聴き込みをする。童子は北を頼むぞ」


「はぁ、一体何処にあるんですかね……幻惑の塔」


エクスは天井を見ながら領主に聞いた話を思い出していた。





「………わからない?」


エクスが聞き返す。


「はい……この辺りに塔の様な物は確認出来ず、普段から街の周囲を警備している者に聞いても影すら見当たらない、と……」



「でも、魔物が出てくる、という噂はあるんですよね?」


「はい。しかし、件の場所に行ってみると塔は無く、魔物だけがその場所に居りました」


エクスはさらに困惑する。


「塔だけが消えていた……という事ですか……?」


フレンツェが頷くと、重苦しい雰囲気が流れた。


コトリ、と紅茶とお茶菓子が卓の上に置かれる。

女中は紅茶を人数分置き終わると、フレンツェの傍にまた控える。


ありがとうございます、と一声かけてから紅茶を飲み、エクスはまた思案した。



(塔だけが消えて、魔物が残る?塔が消えたなら何処に……?地中……は潜る時に振動がする筈だし、何より地面に跡が残る…。空…………?でもどうやって浮かせる……?)


エクスが考えているとそう言えば、とフレンツェが声を出す。


「噂の一つに、霧の中から塔が出てくる、とありました。もしかしたら霧が関係あるやもしれません」



「霧……ですか、分かりました。暫くはこの街で聴き込みをしたいと思います」


エクスはそう言うと紅茶を飲み干し、立ち上がる。


「申し訳ありません、大したお役にも立てず…」


フレンツェが申し訳なさそうに言う。


「いえ、情報を頂けただけで充分過ぎます」


「また、何かありましたら、ご報告させて頂きます。……勇者様と剣聖様がお帰りだ、案内して差し上げなさい」



そう言うと女中は部屋を出て、待機する。


「こちらでもなにか分かりましたら、ご報告します。……それでは、失礼します」


そう言うとエクスとトーフェは部屋を出て、女中の後を着いていく。






エクスとトーフェが出て行った後の部屋で、フレンツェは溜息をつく。


「はぁ……塔に関して、なにかわかる事があればいいのだが。仕事の合間に少し資料も調べてみるか……」


そう言うとフレンツェは立ち上がり、応接室から自室へと歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る