ep.4 探索二日目

夜が明けたばかりの頃、エクスは目を覚ますと顔を洗い身支度を整える。


「今日も聴き込みか……先に街に出ようかな」


そう決めるとエクスはトーフェに書き置きを残し、静かに部屋を出る。


まだ少し暗い廊下はひんやりとしていて、寝起きの体には少々堪えたのか軽く身震いをしてしまう。


「まだ少し寒いな…そろそろ冬穫期の季節だからかな」


季節の流れを肌で感じながら階段を降りると、宿の従業員は食事を作っている途中だった。


寝起きの体に、スープと焼きたての香ばしいパンの香りが染み渡る。


帰ってきたら食べよう。そう決めると靴を履き、宿を出た。


辺りは朝靄に包まれ、湿った空気と冷気を伴う風が時折吹きつける。


(少し街を出て、塔を捜してみようか)


ふらりと歩き出し、門番に声を掛ける。



「少し街の外を見てきます。塔があるかも知れませんし」


「分かりました、何かあればお呼びください。駆け付けますので」


そう言うと、お辞儀をして門番はエクスを見送る。


(色んな人にお辞儀をされたり敬語で話し掛けられるのはまだ慣れないなぁ)



そう思いながら街を出て、周りを確認する。


あまり期待せず塔を探しに出たものの、やはりと言うべきか。辺りは朝靄に包まれている以外は特に変わった様子もなく。


「塔があるんなら高さもある筈だし、見当たらないって言うことはこの辺りには無いのかな…」


呟き、周りを少し探索する。




「やっぱりないか…」


そう思い、街へ戻ろうと振り返る。


(………ん?今視界の端になにか……)



先程探していた場所へもう一度視界を向けた。

しかし、そこにあったのは草木のみ。


「気の所為かな……」



そう言うとまた街へと歩き出す。


朝ご飯を食べよう、そんな事を考えながら。




宿へ戻り、食堂へと足を踏み入れると既にトーフェは起きて食事をとっていた。


「おはようございます、トーフェさん」


声を掛け、朝食を従業員に頼む。


「ん、おお、童子か。よく眠れたか」


パンにかぶりつき、そんな挨拶を交わす。

「ええ、まぁ。塔のこと考えてたので早く起きちゃいましたけどね」


恥ずかしそうに頭を搔くエクス。


「今日の聴き込みでなにか分かればいいんですけどね」

「そんな簡単には分からんだろうがな」


エクスの目の前に果実水が置かれると、半分ほど一気に流し込む。


探索で少し温まった体に冷えた果実水が沁み渡る。


「街の外に行ってみたんですけど、やっぱり塔は無かったですし……」


エクスの前に朝食が置かれ、手を付けながら会話を続ける。


「霧と一緒に消えるのもまだよく分からないですよね……」


「……ふむ、ふと思ったのだが」


トーフェは食事を止め、エクスを見据えた。


「塔と目撃されたのは何時頃だろうな?」


「………そう言えば聴いてなかったですね。よく現れる時間帯とかあるんですかね………?」


暫くの間沈黙が続く。


「……もし、仮に現れる時間帯があるのだとすれば、その時間帯を目安に動けば塔に着けるのではないか?」



「……つまり今回の聴き込みは、塔が確認された時間帯を重点的に、って事ですね?」


トーフェが頷く。


「……分かりました。それではまた手分けして聴き込みましょう。合流する時間帯は───」


「────正午の鐘が鳴ったら、だな」


方針を決めると食事を終わらせ、果実水を一気に呷る。


「………ぷはっ。それでは、また正午に合流しましょうか」


「あぁ、行くか」


二人は立ち上がると、朝食代を支払い食堂を出た。

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