ep.2 職業とエストルの街
森を抜けた先で遭遇した魔物───フォレンドボア以外は幸いな事に一度も現れなかった。
歩きながらエクスは質問する。
「全く剣筋が見えなかったんですけど……ほんとに強いんですね…何したんですか?」
トーフェはふん、と鼻を鳴らしつまらなさそうに言う。
「近付いたあいつの横に抜けて首を落としただけだな。大した事はしてない」
「そういえば職業って剣聖でしたっけ……」
エクスがそう言うと、否定する。
「職業は剣士だぞ?剣聖にはまだなれんみたいだ。理由は分からんがな」
「そうなんですか?てっきり剣聖だと…」
職業とは、通常の職業とは別に与えられる才能だとされている。
剣士の職業についているものは剣の扱いが通常よりも上手く、商人の職業についているものは算術等が優れているのだ。
また、これにより商人の職業を与えられた者は商人の道へ。
剣士の職業を与えられた者は騎士や傭兵を目指すなど、仕事を選ぶ際の決め手の一つにもなっている。
「童子はなんだ?やはり剣士か?」
そう聞くとエクスは困ったような笑顔を浮かべた。
「いやぁ……それが…まだ確認してないんですよね……」
トーフェが怪訝な表情を見せる。
「確認してない?」
「はい…王都に着いた時に教会に職業を聞こうと思ったんですけど……」
「忘れてたのか……」
呆れたように溜息を着く。
「すいません……」
「まぁ、この先の街で確認出来るだろう…そこで確認しておくんだな」
暫く歩き、ようやく街へと着く。
「~っ!やっと街だ!宿取りましょう、宿!」
「まて、先に門番にこれを渡してくる。宿は後だ」
トーフェは懐から書状を見せ、領主へと面会する為に渡されていた王直筆の手紙を取り出す。
顔色を変え、兵が慌ただしくなる。
「……確かに王家の印もありますね。すぐに面会を希望されますか?」
「今すぐって訳ではないが、出来るだけ早い方が良い。其方も忙しい身であるが、すまないな」
「畏まりました、領主様もすぐにお会いになられると思います。出来ればこちらでお待ち頂きたいのですが……」
そこでトーフェはエクスに振り向き、ニヤリと笑う。
「だそうだ。宿はまだ後だな?」
エクスは項垂れた。
暫く待っていると「準備が整いました。お会いになるそうです」と声を掛けられる。
「領主様ってどんな人なんですかね?」
エクスがふと思った事を質問した。
「さぁな。だが街を見る限り悪い者ではなかろう。人の顔が明るいしな」
確かに人々な顔は明るく、困ってる様な表情や痩せているといった事も無さそうだった。
「領主様は真面目な方で、とても気さくなんですよ。我々にも気を使っていただいています」
とても慕われている方なんですよ、と案内をしてくれている兵士が言う。
やがて領主の住む館へと着くと、そのまま中へと案内される。
「大きいですね…!それに広い…」
エクスの目の前には広く、綺麗に手入れされている庭が写っていた。
「それでは、館の中へどうぞ」
庭を通り過ぎると、大きな扉が開きエクス達は中へと入っていく。
中に入るとまず目に飛び込んできたのは2階へと続く大きな階段だった。
中を案内され、歩いている途中にも絵画や高そうな壺、果ては鎧が飾られていた。
絵を眺め、壺を眺めながらと様々な物を楽しみながら進む。
やがて一つの部屋の前へと辿り着き、案内役の兵士が扉をノックする。
「勇者様、剣聖様をお連れ致しました」
少しして、扉の向こうから「どうぞ」と渋い声が帰ってきた。
失礼致します、と兵士が扉を開ける。
「わざわざ御足労いただき、感謝致します。勇者殿」
目の前には髪を整え、髭を蓄えた老年の男性。
「私はエストルの領主をしています、フレンツェ・トワールです。以後お見知りおきを…」
フレンツェはそう名乗ると、優しい笑みを浮かべた。
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