第2章 少女は涙を流さなかった。
ep.1 道中
───暗い、暗い地下。
どこからか水の滴る音が響いてくる。
地下牢に囚われたその者の瞳は、まだ諦めを宿していない。
スキをついて、逃げるタイミングを見計らっていた。
─────尻尾を揺らし、見計らっていた。
エクスとトーフェは、王に聞かされた連絡のつかなくなった獣人族を探しに街へと向かっていた。
「王都を出てから2日………。街はまだなんですかね………」
疲れたようにエクスが言う。
「もうそろそろだな。なんだ、疲れたか?」
そんなエクスを見ながらトーフェは意地悪な笑みを浮かべていた。
「もうそろそろって、昨日も聞いた気がします……」
「しょうがなかろう。地図を忘れたのだから今どの辺かなんていうのは、感覚だ」
思わずじっとり睨む。
「それ、迷子になったりしてませんか…」
「それは無い。何度か通った道だからな」
ピシャリと言い切る。
「はぁ……街に行ったら地図買わないと…」
「お、ほれ。街にそろそろ着くぞ」
トーフェが指差す先に薄らと街が見えた。
「ほんとだ……!あと少しか………長かったぁ!」
万感の想いを込めてエクスが言うと、隣から溜息。
「はぁ…別段大した距離でもないだろう…」
「だってトーフェさん、実力を図るためだって、魔物の巣にふらふら突っ込むじゃないですか!意外と疲れるんですよあれ!」
この2日間トーフェは実力を見たいからと、王都と街の間にある森で魔物の巣に突っ込んではエクスに任せて自分は見学していた。
森にあった巣の殆どはスライムの物だったが、稀に空を飛ぶ蝙蝠の魔物────フォレンバットの巣もあったのだ。
複数に囲まれながら一人で背後の攻撃を対処したり、空を飛ぶ魔物に囲まれたりで散々な目にあっていた。
「私が手伝ったら実力が測れないだろう。それに、向かう魔物の量は制限しておいたぞ?」
確かに、トーフェは殺気をピンポイントで飛ばして、エクスへと向かう魔物の量を制限はしていた。
「一度に8匹は来たじゃないですか!」
「まぁ、それ位は対処してもらわないとな」
欠伸をしながら、腰に差していた刀を担ぐ。
「まぁ疲れているようだから、街へと向かう後少し位は私が魔物の相手をしてやる」
そう言うと、眠そうな眼で横を向く。
「え?……あぁ…あれですか?何かでかいのが走ってきてる……走ってきてる!?」
エクスが驚いて剣を抜くが、トーフェがおもむろに魔物の前へ出る。
「私がやると言ったろう。………あれはフォレンドボアか…」
緑色の猪がこちらへ勢いよく走ってきているのを眺めながら言った。
「意外とでかいんですね……あれ」
走ってきている猪のサイズは明らかに成人男性よりも大きかった。
「まぁ、大きくても─────」
トーフェと猪が接触する寸前
「─────首を落とせばよかろう」
猪の首が、落ちる。
「ほれ、何を惚けている。さっさと街へ行くぞ」
そう言いながら死体を丸ごと袋へ閉まっていく。
「…………えっ?」
エクスは目の前の状況を理解できなかった。
前に出て、猪にはねられると思ったら首が落ちていた。
文章に起こすと何とも意味の分からない状況である。
そんな中、意味の分からない状況を引き起こした本人は
「ん?この袋が不思議か?魔法の袋だ。なんでも入るぞ?」
何ともとんちんかんな発言をしていた。
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