ep.10 旅立ち

勇者になると宣言してから数日後、エクスは門を背に外を眺めていた。

王に旅の支援として金貨と高級な装備を渡されそうになったが、受け取らなかった。


理由はただ、未熟な自分が今から強い装備に頼る事では生き残れないからと思ったからだ。


金貨に関しては、自分の村への支援を少しだけしてもらうという事で納得してもらった。


あまりにも支援が大きいと他の村との不和を招くということも伝えた。



その後は宿を引き払い、マルドアへと挨拶をしに行くと無事を祈ってと、薬草とポーションを複数貰えた。

エクスは申し訳ないと遠慮したが、「魔王を討伐したら贔屓にしてる店として紹介してくれや」と無理矢理渡されたのである。



そして今に至る。



「勇者って何だろう………。これから僕は………」



魔王を、討つ。



そう考えて前を向くと、やけに世界が広く感じた。



「待たせたな、童子。ちと遅くなった」


後ろから近付いてくる気配。

エルフ族の剣聖─────剣士トーフェが頭を掻きながら歩いてくる。


「いえ、僕も丁度来た所です。えっと………」


エクスが次の目的地を思い出す。


「王様の話だと、まず確かこの先にある街、エストルに向かうんですよね?」



そうだ、と自分の顎を擦りながらトーフェは続けた。


「元々同行させる予定だった者が、トラブルでその街にいるらしい。そこから連絡が無いそうだ」


元々、建立祭に併せて王に一度面会する予定だったがトラブルで街に滞在しているという。


そこから連絡が途絶えたという話だった。


「魔族………ですかね…」


エクスの表情が重いものへと変化する。


「さぁな……だが、魔族ならば街を破壊するだろう。そこから逃げ出した者が居れば情報が来るはずだ。それとも─────」


ニタリと脅かすように笑う。


「全滅させられているか、だな」


エクスは少しむくれた表情をする。

「やめてくださいよ……縁起でもない…」


呵呵、と笑うとトーフェはそのまま歩き出す。


「ほら、急ぐぞ。ゆっくりしてたらいつ帰れるかもわからん」


その言葉にエクスはふと思う。


「そういえば、魔王討伐に同行する人って、バランスを考えた上で、少数になるように選ばれたんですよね?」


質問すると「そうだ」と返ってくる。


「エルフ族の中で一番強いから選ばれたんだ。次向かう街で合流する者は、獣人族の中でも一番回復と補助に富んだ者だと聞いた」


「なら、僕は前衛って事ですよね?なら後衛は………」


そこでトーフェは苦い顔をした。


「あいつだな。銀髪の」


「ルシエラさんになるのか………何処に居るのかな…」




王都に現れた魔族は元々2体で、1体はトーフェが倒したが街に被害が出ないようにと外へと吹き飛ばし、闘っていた。


しかし、時間差でもう一体の魔族と魔物が現れたのである。

そのうちの1体がエクスと闘った魔族であった。


その後、事態に気付いた兵達が街に現れた魔物を討伐しようとしたが、既に全て殺された後だったという。



全て急所を魔法で貫かれた状態で。




「そんな曲芸じみた事が出来るのはあいつ位のものだろう」とトーフェが言う。


「元々3人で行く予定だったのを、急遽入れる予定になったんですよね」


「まぁ、引き受けるかどうかはあいつ次第だろう。あまり期待はしない方がいい」


そう言うとさっさと歩いていってしまう。


「……また、何処かで会えるよね」



そんな呟きを残して



勇者は後を追って行った。

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