ep.9.5 [眺めていた]

エクスは騎士試験の会場に観客として観ていた。


目の前では騎士になろうと様々な人が集まり、試験官の前で様々な剣術や魔法を披露してみせる姿。


時折驚いたような声を上げる観客に紛れて眺めていたエクスはその場から立ち去る。




宿に帰ると、荷物を纏めようとするが手に付かず、ベッドへと倒れ込む。


(…………)


ぼうっと天井を眺めていると、徐々に微睡んでいく。


(騎士になりたかったなぁ………)


そんな言葉を最後に、眠りに落ちる。





目が覚めると、窓から差す光は太陽から月明かりへと変わっていた。


(荷物、纏めたいけど。今はそんな気分じゃないや……)


そこでぐう、と腹が鳴り初めて自分が空腹な事に気が付く。


(何か、食べよう。今は外で食べたいな……)



そう決めるとエクスはふらふらと宿を出て、屋台を探す。



暫く歩くが、屋台は殆ど閉まって居るか、完売している状態だった。


(食堂で食べる気分にもなれない……)


そこで帰ろうとすると、服を引っ張られる。

振り返るとそこには串焼きの袋。


「あの、宜しければ、これ頂いてください」


袋を持っているのは─────エクスが魔物から助けた男性だった。


「あの時の………大丈夫でしたか?」


エクスが聞くと男性はお陰様で、と笑う。


「貴方のお陰で無事、家族にまた会えました。これは弟がやってる屋台の商品なんです」


ちょっとばかし有名なんですよ、と誇らしげに語る。


「弟が、貴方に御礼をしたいと出来立てを焼いてくれたんです。本当は宿にお届けしに出た所だったんですけど、ちょうど良かった」


「………ありがとうございます、お腹、丁度減ってたところですから、有難く頂きます」


エクスは受け取ると、笑顔を向ける。



その笑顔を見た男性の顔が曇った。


「……どうされました?」

エクスが問う。



「………貴方は、僕の命を救って下さいました。恩人なんです」


「……でも、何だか暗いですね。どうされたんですか……?」


一瞬、エクスの動きが止まるものの、すぐに取り繕う。


「……いえ、ちょっと疲れただけです、気にしないで下さい。心配掛けてしまってごめんなさい」


そう言うとエクスはまた笑顔を作る。


「………分かりました、何かありましたら、僕のお店に来てください。王都じゃなくて、フーゲルの街にある食堂です。必ずおもてなしさせて頂きますからね!」


男性はそう言うと食堂の名前が書かれた紙を渡す。


「それでは、また。………命を救っていただき、ありがとうございました!!」


そこで男性と別れた。



(……助けてよかったな。………何処で食べよう)


考え、エクスは宿の屋根に登ることにした。


(少しの間だけ、失礼します)


足に風の魔法を纏わせ、一息に屋根の上へ飛び乗る。

屋根の上から見る月は、やけに綺麗だった。


串焼きを食べながら、月を眺める。




なんだか少しだけ、寒かった。

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