ep.9 勇者

着替え終わったエクスは神官の2人と、エルフの剣士───トーフェと王城へ向かっていた。


(あぁ………お祭り終わっちゃってるのか……騎士試験はもう受付終わってるかな……)


起きてから目まぐるしく変わる展開にエクスの頭は現実逃避を起こしていた。


「この方が例の方です、通して頂けますか?」


神官がそう言うと、城の門番は慌ただしく王へと報告へ向かう。


それから間もなく「王がお会いになるそうです!今すぐ案内を……!」という声をが聞こえた。


そんなやり取りをしているのを聞き流しながら案内され、王城へと歩き出す。




連れて来られたのは、物々しい雰囲気を醸し出す─────謁見の間。



そして、王の前へと傅く。


「王よ、この方が神託の者でございます」


神官が告げる。


「おぉ………!この者が、神託にあった………!名前を伺ってもよいか………?」


そこでトーフェに腰を軽く叩かれる。


「は、はい!わたくしは、え、エクスと申します!」


あまりにもの緊張で何度かつっかえたが、何とか名前を告げる事は出来た。


「そう畏まらないでもよい。寧ろ、これから頼む事を考えればこちらが礼を尽くさねばならぬのだ………」


そう言うと、王は一つ息を大きく吸う。


「………勇者エクス殿………!我等全てを………世界をお救い下され………!」



思いもよらぬ言葉にエクスは

「ゆ………うしゃ………?ってなんですか………?」


そんな疑問しか出なかった。




神官が説明をする。


「20年程前、魔族と呼ばれる者達が全ての種族へ攻撃を仕掛けました。目的は……」


そこで少し言い淀むが、意を決したよう続けた。


「……全種族の淘汰、殲滅です」


エクスが唖然とするが、神官は更に続ける。


「魔族は非常に強力な身体能力と優れた魔法に加え、魔物を使い非常に恐ろしい強さと速度で各地を攻め落としていきました。それに……」


「通常とは異なる属性、闇の魔法を前に我々は圧倒的な苦戦を強いられてきました。そんな中、女神様から神託を頂きました……!」


そこでちらりとエクスの甲を見る。


「右手に紋を持つ者、魔を祓う剣と成りて全てを救わん。其は勇を持つ者、勇者なり」


神官が詠うように、語った。


「それが神託の内容です。そして我々は探してきましたが……名だたる人物、様々な方にも確認させて頂きましたが、紋を確認する事は出来ず……今、貴方に出会えました」


神官は跪いて、エクスの手を取る。


「虫のいい話だとは思います!貴方に頼む事がどれ程の事なのか、想像をする事すら許されない事だということも理解しています!」


神官は声を上げた。


「………っ!それでもっ!」


「貴方にしか頼めないのです……!光の魔力を持つ貴方にしか、魔の頂点に立つ者───魔王は討てないのです………!」


ぽつりぽつりと涙を流しながら、続ける。


「我等では勝てないのです………!我等ではあの領域に踏み込めないのです………!」




そんな事を聞かされ、エクスは膝をつくと神官の肩へと手を置く。


「………正直、勇者と言うものがどういうものか、分からないですし、僕なんかが魔王?というのに勝てるかどうかも分かりません」


神官が顔を上げる。


「………でも」


エクスは困ったように笑う。


「どうしてか分からないんです。昔から、困ってる人は見逃せないんです」


だから、とエクスは見る者全てを安心させるような優しい笑みを浮かべ。



「だから。僕に、助けさせて下さい」


宣言する。




「───────勇者として、魔王を討ちます」

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