ep.7 目覚めと剣聖

目が覚めると、そこは知らない部屋だった。


「ここは……」


そう起き上がろうとすると、扉を開ける音がする。


「エクスさーん、服を変えさせ………!?」


驚いた様に息を呑む声と、遅れて聴こえた衣類の落ちる音に意識を向ける。


女性が驚いて固まっていた。


「………目が覚めたんですね!今治療師の方をお呼びしますから、少しお待ち下さい!」


そう言うと女性は走っていってしまった。


「そうか、ここは……治癒院か……僕は………」


自分の掌を見つめる。


(生きてる………っ!)


そこで、ふと思い出した。


「……ルシエラさんは……?」


部屋へと治療師が入ってくる。

「おお……!起きてくれたか!記憶はあるかな?今の状態は把握しているかな?」


「え、えっと、今の状態は把握してます。記憶も………それで、僕の他に銀髪の子は此処に居ますか?」


そう尋ねると首を傾げる。


「此処に運ばれた人に銀髪の子は居ないぞ………?」


その言葉に思考が停止した。


「えっ……?じゃあ、ここに運んでくれたのは………」



「私だ、童子。目が覚めたか」


扉に寄り掛かる、人の影。


「貴方は………」


着流しに、細長い剣を携えたエルフは答える。


「トーフェだ。早速で悪いが、少し付き合ってもらうぞ」


目の前から消えたと思った次の瞬間には、目線の高くなった視界。


「えっ?あの、ちょ………」


エクスは担がれていた。



「金は払ってある、安心しろ。あぁ、あとお前の服も後で買いに行く。道すがらにお前の言っていた銀髪の者についても話がある」


一息に言われた言葉に混乱するも、銀髪という単語に頭が覚醒する。


「………はい、分かりました。それで、その」


「トーフェだ」


ぶっきらぼうに答えるエルフの剣士────トーフェに



「トーフェ、さん」


意を決した様に、エクスは言う。


「……降ろしてくれませんか?」


「……………」



トーフェは窓から飛び降りる─────エクスを担いだまま。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉ!?此処に3階………!」


治療師が驚き、窓から確認する。


トーフェは近くにあった木を掴むと、そこからさらに飛び屋根の上へと着地した。


「えぇ…………?」


困惑した声を上げながら後を眺める事しか、治療師の男には出来なかった。





「し、死ぬかと思った………!」

そう言うとエクスは抗議する。


「ぼ、僕怪我をしてた筈なんですけど!!傷口開いたりしたらまた治癒院に逆戻りしてる所ですよ!!!」


耳元で抗議されたトーフェは顔を顰める。


「喧しいな……!童子の傷はもう治ってる筈だぞ!」


その言葉に抗議をやめる。


「傷は治ってる……?あんなに深く斬られたのに……?というか、僕は何日寝て………?」


「童子が気絶をしてからなら恐らく5日程だ。先の銀髪の者が傷に関して関わっている」


というか、と続けた。


「これからの事にも関係してくる」


エクスは更に困惑する。


「まずは童子を運び込む直前から話を、しよう」


そう言うとトーフェは語り出した。






ルシエラはエクスの傷を確認すると、その場で座り込み膝枕をする。


「……うん、魔力を貰うから、このくらいは許してあげよう」


そう言うとエクスの額に手を翳す。


「うーん……この調子だと後2分程かな。それにしても不思議な魔力だ。闇の魔力に抵抗してたし……」


エクスの顔をちらりと覗く。


(属性は光と過程して、あの魔力の増加は一体なんだ?何処から持ってきたんだ……?)


エクスの魔力を吸い終わったルシエラは立ち上がる。


(ふう、久々の魔力吸引だけど上手くいって良かった…さて………)


ルシエラは右手を振りかざすと、槍の形をした炎の魔法を背後へと撃ち出した。


瞬間、炎の槍が二つに切り裂かれる。


「……何のようだ?」


ルシエラが問い掛けると、背後から刃を突き付けられる。


(細く、反りの入った剣……刀か)


「お前はその童子に何をしていた?」


「魔力を頂いてたんだ。本当さ。怪我は魔族と闘って負ったものだ、私では無いよ」


そう答えると驚いた雰囲気を匂わせる。


「魔族………?もう一体居たのか……?」


ルシエラの姿が薄くなっていく。


「………なっ!待て!まだ話は………」


「私から話す事はもう無いよ。これから私はやる事があるからこれで失礼するよ」


振り返るルシエラの表情は冷たい笑顔を浮かべて


「さらばだ、エルフの剣聖殿?」


そう宣って、消えた。



「くっ……!まずはこの童子が優先か……!まずは治癒院に連れて行かなければな……」


エルフの剣士はエクスを背負うと、治癒院へと目指して歩いていった。








「……という事だ。運び込んだ直後は魔力もすっからかんだった」


語り終えたトーフェに担がれながら、エクスは聞いた話を考えていた。


(ルシエラさんは大丈夫だったのか……多分、魔族はあの人が倒したんだ……でも、魔力を奪う……?)


考え込んでいるエクスを他所に、トーフェは続ける。


「それで、次に話すことがそのルシエラとやらも関係してくる。無論私もだ」



「トーフェさんも………?」


ああ、と返事をするとエクスの右手をちらりと見る。




「童子の右手にあるアザについてだ」

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