ep.6 【魔女】と夢

魔族の体が血が噴き出すのをエクセラは見ていた。


「今の光は………なんの魔法だ?属性もよく分からない……!」


嬉しそうに口元を歪め、興奮したように笑い出す。


「……すごい、すごいすごいすごい!!すごい面白いじゃないか!私の知らない魔法がまだある!属性がある!これなら………!」


「ぬ、ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!許さんぞ!人族!!今すぐ殺して………」


「いやそれは困るよ」


あまりにも冷た過ぎる声に魔族の動きが止まる。


辺りに魔力が漂い始め、魔族が後ずさりしていく。


「な、んだ、貴様。その馬鹿げた魔力量は…」


「杖は要らないかな。まずは結界と、エクスくんには治癒魔法を掛けないとね。あまり得意じゃないのは許して欲しいけど」


ルシエラが一つ、指を鳴らす。


それだけでエクスの怪我が巻き戻るように治って行く。


パチン、ともう一つ。


瞬間、王都を包み込む程の結界が現れた。


同時に魔族が苦しみ、崩れ落ちる。

「こ、これは、聖結界か………!」


魔族の体の至る所からあがる煙を眺めながらルシエラは、歩き出す。


「ご明察、やるじゃないか」


歩いてくる姿を見て、魔族は恐れ慄いた。


(有り得ない……!有り得ない有り得ない!たかが人族がここまでの魔力を持つなど……!まさか、こいつは………!)


ルシエラが目の前に立っていた。


「……ひっ!お、おまえは、魔女……」


「正解だ。それでは」


突如、落ちていく感覚に襲われる。


「は?え?あ……」


「さようなら」



地面から生えた口に呑まれて行くのを見届ける事もなく、ルシエラはまた歩き出して行った。




エクスの思考は暗い意識の底で漂っていた。

辺りは何も見えない、ただ暗い空間。


(暗い。僕は、死んだのかな……)


思考だけを繰り返す。


(ルシエラさん、逃げたかな。あぁ、騎士になれなかった。村のみんな悲しむかな。父さんと母さんはきっと泣くだろうなぁ。妹もきっと泣いちゃうかな……)


繰り返す。


(あの時、逃げれば良かったのかな。でも、逃げたらきっとあの子は死んじゃってたからこれで良かったのかな。マルドアさんは逃げたかな……きっと大丈夫だよね…)


やがて、一つの思考に辿り着く。


(……死にたくないなぁ)


そんな想いを抱きながら、更に暗い意識の底へと沈んでいく。



(…………?)


ふと、暗い意識の底に細い光が差した。


(……なんだろう、あそこは)


光に意識を向けると、次第に辺りを強く照らしていく。


やがて光は一つの光景へと変わっていき、エクスの意識はその光景へと飛び込んでった。


(こ、こは、何処?それにこの人は……)



崩れ落ちた神殿の様な場所の中心で、女性が一人泣いていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


ずっと同じ言葉を繰り返しながら。


その姿に、何故か酷く胸が痛む。

エクスは泣かないでほしいと手を伸ばすが、届かない。


「ごめんなさい、貴方に辛い役目を押し付けてごめんなさい。護れない私を、許さないでください。」


その言葉に、咄嗟に声が出た。



「泣かないでください、貴女はきっと、悪くないんだ」


エクスは自分の声が出た事に驚いた。

女性が、ハッと顔を上げる。



その瞬間、意識が何処かへ引っ張られた。


その力に抵抗しようとするが、さらに強く引っ張られ、エクスは声を上げた。


「貴女は、きっと悪くない!だからもう……」


最後に見た女性の表情は、とても嬉しそうで、そして哀しそうなだった。




「────自分を、責めないで下さい!!!!ー」

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