ep.5 発現

瞬きは、しなかった。


「………っ!」


背後から迫り来る殺気に合わせて、剣を振るう。

振るった先に映ったのは、剣を弾かれた魔族の姿。


(っ………速い!!!それに………)


剣を振るった腕から伝わる衝撃の重さに、たたらを踏む。


「弾かれて終わりだと思うか?」


そのまま魔族は連続で斬り掛かる。

「くっ!!」


四方八方から迫り来る殺気に合わせて剣を振るうエクスはただ驚愕していた。


(有り得ない………!魔法で強化したのに、魔力を纏ってないヤツの一撃が重すぎる!!!)


それでいて、視力では追えない程の速度。


(詠唱する余裕がない………!ならっ……!)


振るわれる剣に合わせて、後ろへ大きく飛ぶ。

「逃がすかァ!!!!!」


魔族が追い縋り、剣を振るう。

が、足元から感じる濃密な魔力の気配に気付いた。


「なにっ!?」

地面に目を向けると、そこには魔法陣。


「…………[炎弾]!!!!」


瞬間、魔法陣から殺到する炎弾に呑まれる。


「ぬ、ぐ、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


魔族の苦悶の表情が炎弾に呑まれて行くのを確認したエクスは膝を着き、荒い息を吐く。



「……っはぁ!やったの、か?」


煙に覆われたまま、姿が見えない魔族を警戒する。


「今のは流石に肝を冷やしたぞ……人間ッ!」


声と同時に勢いよく飛び出して来た魔族は、エクスの目前へと迫る。その速度は先程の比ではなかった。


「なっ、はや……」


遅れて反応するエクスに


「遅いッ!!!!」


そのまま剣を振り下ろす。


「がっ…………!」


構えた剣ごと叩き切られた瞬間が、やけに鮮明に見えた。


遅れて噴き出す鮮血が、何処か他人事のように思える。それを自分の体から走る痛みが自分のものだと強く訴えた。


(っ死、ぬの、か?)


体が地面へと倒れ込む。


「魔力で強化しなければ、傷を負うところだった。まさか魔法陣を構築出来るとはな…」


その言葉に、心が折れそうだった。


(魔力を込めて、不意を完全についた上で、傷を負う程度……か…?)


「チッ。余計な時間だったな。早く加勢に行かなければ…」


視界が、霞む。


それが涙で霞んでいるのか、血を流しすぎて霞んでいるのかすら判断がつかない。


(…あぁ、助けた人は、逃げたのかな……)


思考が朧気になっていく。


(ごめん…僕、騎士になれなかった……)


段々と微睡んでいくのが分かる。


(ねむ、いなぁ……)


「まだ残りが居たのか?」


その言葉に、意識が引き戻された。


無理やり視界を向けると霞んで見えるが確かにそこには人が居た。


記憶に新しい、銀髪の人影が。


(っ…………!?なん、で!逃げ……!)


声を上げようとするが、出てくるのは血の塊だけ。


「丁度いい、キサマも殺してやろう」


「──、────、─────」


遠くて聴こえないが、確かにルシエラの声だった。


(さ、せるか……!させるか………!)


突如体の奥から湧き上がる優しい魔力に驚く。


(なん、だ!?いや、今はこの魔力で……!!)


激痛の走る体を無理矢理起き上がらせる。


「た、すけ、る………!!!」


右手には折れた刀身を、魔力で補う様に形どった光の剣。


「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「────!─────!?」


もはや、入ってくる声すらも聴こえない。


それでも確かに。



手応えは、あったから。



「はやく、にげ───」


そこでエクスの意識は途切れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る