ep.4 魔族

「────え?」


突如空気を震わせ鳴り響いた爆発音に、間の抜けた声が自分の喉から出てくる事にすら気付かなかった。


否、気付けなかった。


振り返った先、建物より高く上がる黒雲と、少し遅れて来る風圧が何処か現実離れしている様に感じる。


「……爆発音と、魔力の気配。あそこで魔法が放たれたのか……?人混みの多い王都で……?」


ルシエラは爆発の起きた先を睨みながら思案する。


(中級、それも上位の、か…?それも誰が……?)


そして、漸く現実を理解したのか、あらゆる場所から聞こえてくる悲鳴と、怒号。


その騒ぎでエクスもまた、現実へと帰ってくる。


「………!怪我人が居るかも知れない!早く助けに行かないと!」


その言葉を置いて、一気に駆け出していく。


エクスの目の前には、爆発から逃れ、何かから逃げる様にこちらへと掛けていく人の流れ。

一斉に、それも大量の人影が、一つの方向へと走り出していく様は圧倒的な壁とも言える。


その壁へと真っ直ぐ突っ込んでいくエクスの行動は、正しく無謀だった。


普通ならば。


「っと、まちたまえ!エクスくん!今その方向に駆け出しても人の波にのまれ……」


言いかけて、魔力の流れに気付く。


(……詠唱してるのか?集まる魔力の量からして初級中位………か?)



エクスは走りながら、詠唱をする。


『私は風になる。私より速い者を、疾い者を追い越せる速度を!』


詠唱を終え、発動するは理を覆す力。


『我が身に風を!』


生きる全ての者に許された特権。


それが、



『エアルフ!!!』




─────魔法。





その姿を見ていたルシエラは、魔力がエクスの足元へと集まるのを確認した。


(その位置から跳ぶのか………?屋根からつたって行くつもりか)


そう思った瞬間、裏切られる。



エクスは魔力を足元から発生させ、人の波を飛び越え。


(………壁を走るのか!)


そのまま壁に着地すると、魔法の補助を受け、さらに加速しながら、奥へと消えていった。


(なら私は情報を集めてから向こうへと行くか)


そう決めたルシエラは走ってきた男を捕まえると、話を聞く。


「あそこから逃げてきたのか?一体何があったんだ?」


そう問うルシエラに、男は怯えながら答える。


「わ、わからねえ!だが、爆発が起きた所から魔族と、大量の魔物が出やがった!!」


そう言うと、男はまた駆け出す。


(魔族と魔物だと……!?なら急がないと、被害が大きくなるな……)


だが、と。思い直す。


(魔物なら恐らく近くにいる騎士が討伐に当たる筈だ。問題は魔族かな)


ルシエラはふわりと飛ぶと、そのまま屋根の上へと降り立つ。


爆発の起きた先にうっすらと見えたのは


「………!?エクスくん!?」


エクスが、魔族らしき人影へと斬り掛かる姿だった。





壁を走りながら、エクスは剣を抜く。


(魔物が街の中に出たのか……?だけど、今の爆発は魔物なのか……?)


そう思いながら走るエクスの視界の先には



「う、うわぁぁぁぁぁぁぁあ!誰か!助けてくれ!」


蜂型の魔物に襲われている男の姿。


「っ、間に合え!」


エクスは壁を勢いよく蹴り飛ばすと、その勢いのまま男の元へと飛ぶ。


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」


声を上げ、魔物の気を逸らす。1秒でも男から視線を外させる為に。



果たして、声に気付いたか、振り向く蜂型の魔物の首を勢いのまま一閃。


首を落とし、男の側へと降り立つ。


「はやく、逃げてください!」


「す、すまない、助かった!!このお礼は必ずする!!!」


そう言うと男は起き上がり、走り出して行った。


走り出していくのを音で確認し、また壁へと飛び移り、エクスもまた走る。


そして、走り出した先で見たものは



「では、さよならだ。人間」


禍々しい羽を持つ者が、少女へと剣を振り下ろそうとする瞬間だった。



刹那、エクスの思考は一色へと染まる。



(…………助ける!!!!!)


手の甲から眩い程の輝きが放たれるのすら気が付かない程へと。



その瞬間、魔族と少女を映していた視界が、魔族の驚いた表情へ移り変わる。


「なっ………!何処から出てき……」


気が付いたら魔族と鍔迫り合いをしていた。


その変化に驚くが、そんなことよりと少女に声を掛ける。


「此処は僕が何とかするから、はやく逃げて!!」


少女は目前にある死が遠ざかった事に理解が追い付かなかった。

そんな少女にエクスは焦りを覚える。


「はやくッ!!!!!!!」


その声に驚きながら、少女は走り出す。


「貴っ様………一体何者だ………!」


「子供に手をかけるような外道に名乗る名など無い!!!!」


エクスはそう言うと怒りのまま剣を薙ぎ払う。


「ぬぐっ………!」


魔族が吹き飛ばされるのを確認すると、そのまま追撃をしようと駆け出す。


が。


吹き飛ばした場所から炎弾がこちらへと殺到する。


「くっ………!数が多い………!」


そう言うとエクスは後ろへと飛びながら詠唱、地面に手を着く。


『燃ゆる炎に安らぎを!私の領域に炎の脅威は必要ない!!』


『私の前に壁を!ウォトル!』


瞬間、エクスの目の前に吹き出すは水の壁。


炎弾が水の壁にぶつかり、蒸発していく。

蒸発した水が霧へと変わり視界を曇らせる。


「……驚いたな。剣を防がれた挙句、吹き飛ばされ。あろう事か炎弾すらも防がれるとは」


突如凄まじい突風が噴き出し霧を払う。



「貴様、何者だ?」


直後、凄まじい威圧感をエクスが襲った。


「………っ!」


言葉すら出ないほど濃密な殺気に、気圧される。


「まぁ、いい。誰であろうと」


相対するソレは


「人族であろうと、なかろうと」


歪んだ笑みを向け


「全て、殺そう」




嗤う。




「それが、王の望み」

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