ep.3 宿屋と王都探索と.2

エクスの前には拳程の小さな小袋が2つ並べられていた。


「全部で銀貨2枚と銅貨30枚ってとこだな。ほら、受けとんな」


「ありがとうございます。マルドアさん」


感謝を伝えるとマルドアはむず痒い様な表情を見せる。

「その″さん″付けはいらねえ。敬語もな。俺の事呼ぶ時は呼び捨てでいいぜ」

「…わかったよ、マルドア。ありがとう」


再び感謝を伝えるとマルドアはニカッと笑う。


「おうよ。サービスで銅貨30枚、追加だ」

目の前にもう一つ小袋が並べられた。


「これで祭り楽しんで来いよ?」


エクスは小袋を受け取ると店を出る。


「本当にありがとう!また来るよ!」

そう言うとエクスは人混みに紛れて消えていった。



エクスの去っていった後、マルドアはしみじみと呟く。


「久々に礼儀正しい若え奴見たな………」

カウンターの裏に椅子を出し、腰掛ける。

「騎士になれるといいなぁ、あいつ」


店のベルが、また新たに客が入った事を知らせる。

「お、いらっしゃい。今日はどんな用だ?」


マルドアの営業が、また始まった。










エクスが暫く王都を探索していると、何処からか魅惑的な匂いが鼻腔をくすぐる。

そこでエクスは小腹が空いた事に気付いた。


(初めての王都で少し浮かれ過ぎたみたいだ……空腹に気付かないなんて……)


浮かれていた自分を想像し、少し恥ずかしくなったが切り替えて匂いの元を探す。


匂いの元はすぐ近くにあった。

目の前には《王都名物!【フォレンドボア】の串焼き!》と書かれた看板が立てられている。


並んでいる列の最後尾にエクスが立つ。

目の前には3人程並んでいたが、すぐに食べれそうだと楽しみに待っていた。



並んでから僅かな時間でエクスが先頭まで来る。

「いらっしゃい!どれにしますか!」


売り子の女性に声を掛けられた。

「えっと、おすすめはどれですか?」

エクスが聞くと「こっちの自家製串だよ!こっちにするかい?」と返される。


「じゃあ、それを3本程下さい」

女性は袋に詰めて手渡す。

「はいよ!銅貨6枚だ」


エクスは銅貨を渡し、感謝を述べてから離れる。

袋から掌へと伝わる温もり、そして鼻を擽るように香る串焼きの匂いに思わず頬が緩んだ。


(食べ歩きもいいけど、何処かで少し休憩しながら食べようかな)


そう思いふらふらと歩いた先は王都の中央にある、噴水広場。


噴水から吹き出す水、そして周りを美しく彩り、それでいて風景の邪魔にならない様、徹底的に管理されている草木。


それらを眺めることの出来るベンチに腰掛け、串焼きを頬張る。


(あっ、美味しい…!)


口に入れた瞬間、甘辛いソースが口内を駆け巡る。その次に感じたのは肉から溢れ出る濃厚な旨みと、少しクセのある脂。

恐らくこのソースが1番お勧めな理由は、クセのある脂をアクセントにする為に合わせてあるからだろう。


事実、クセのある脂が寧ろ一口、もう一口と進ませるのだ。



(お勧めにしてもらって良かった……次は別のも買ってみようかな……)

そう考えながら手元を見ると、串焼きを一本。既に食べ終えていた事に気が付いた。


(……もう一本食べて、最後は宿で食べようかな)


袋から一本取り出そうとして、ふと視線に気付く。


目の前には銀髪の少女が立っていた。



(……どうしたんだろう。こっちを見てる……?)


少女の顔を見ると、どうやら袋を見ているようだった。

それに気付いたエクスは、自分を見ているだなんて自惚れか、と内心一人で恥ずかしがる。


「……あ、すまないな、少年。美味しそうに食べるものだから、少々気になってしまったんだ」

少女が声を掛ける。


「あ、いえ、気にしてないので大丈夫です。……あの、良ければ一本いかがですか?」


エクスは串焼きを差し出す。


「……いいのかい?それは助かる。実は財布を落としてしまってね。お腹も減ったし帰ろうかと思ってたんだ」

そう言うと少女は感謝を述べエクスから串焼きを受け取り、頬張る。



「………美味しいな、これ!」


そう言い、驚く少女を見ながらエクスも串焼きを取り出し、食べ始める。


二人が食べ終えるまでに、時間は掛からなかった。



少女はふぅ、と満足気に息を洩らす。

「ありがとう、少年。お陰で美味しいものを食べれたよ」


改めて感謝を述べる少女に、笑顔で返す。


「美味しい串焼きを僕一人で食べるのも、寂しいものだったので」


「そう言ってもらえると助かるよ、少年」


そう言うと少女は、そういえばと続けた。


「名前を聞いていなかったね、私はルシエラだ。君は?」


「僕はエクス、騎士になる為に王都に来たんだ」


そう言うと少女───ルシエラは、ほほうと感心したように声を上げる。


「騎士か、良い目標だ。きっと君ならなれるさ」


「ほんとうかな、だったら良いな」


「あぁ、見たところ、君は強そうだし。何より───」


「何より?」

エクスが聞くと、ルシエラはふっと笑を零した。


「───何より、見ず知らずの私にも優しいからね。きっと王も放っておかないさ」


その言葉と、笑みにエクスは惹き込まれた。


「……っぁ、ありがとう!僕、頑張るよ!」


ここまで応援されて、心が奮い立たない訳が無かった。


「うん、頑張れ。じゃあ、私はそろそろ帰るかな。串焼きの恩は返すからね。期待して待っていてくれ」


悪戯な笑みを浮かべるその横顔に、エクスは。


(………綺麗だなぁ)

そんな事を思った。


「じゃあね、エクスくん?」

別れの言葉を返そうと立ち上がり、

「じゃあ、ね。ルシエ───」



直後。



遥か後方から爆発音が鳴り響いた。




「────え?」


喧騒に包まれた街が、


空気が、





─────突如終わりを迎える。

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