Prologue 03
「僕はエクス。よろしくお願いします。マルドアさん」
男───マルドアがニカッと笑う。
「エクスか!英雄の名前にあやかったのか!いい名前じゃねえか!」
「ありがとうございます。母も父も英雄譚が大好きなんです。……勿論僕もですよ?」
「ちげぇねえ!この国で英雄譚が嫌いな奴なんて居ねえわな!」
マルドアが気持ちよく笑うのに釣られて、エクスも笑みが自然と溢れる。
「そうですね……マルドアさんはどの英雄が好きですか?」
「そうだなぁ………俺は───」
そんな他愛ない話を空へと溶かしながら、馬車は進む。
そして王都まで半分と行った所で、馬車は止まる。
「……あ?どうやら来たみたいだな。あんちゃん」
空気が、変わる。
和やかな空気から、何処か粘性を帯びた様な重い空気へと。
「……そうですね。恐らくこれは────」
エクスが剣を抜き、馬車を降りる。
「──魔物か!任せたぜあんちゃん!」
マルドアが言うと、気付かれているのを悟ってか、岩陰から、草陰から飛び出してくる影。
「……スライムか」
半透明の不定形のからだ。その中心には赤い球体が妖しく輝いていた。
「2匹だけかな……まぁ」
エクスは大きく踏み込むと剣を球体へと突き刺す。
スライムの球体が、不定形のからだの中を動き、剣を躱した。
「油断しないけどっ!」
球体が動くのを察知し、突きから切り上げへと続ける。
キン、と軽い金属音と共に球体を斬るとスライムは球体を残し液状へと変わった。
後ろから飛び掛るスライムの気配を察知し、振り向きざまにまた一閃。
それだけで、呆気なく戦闘は終わった。
「ふいぃ………少し緊張したな…」
息を吐いて緊張を解く。
「やるなぁ!あんちゃん!騎士志望なだけはある!」
馬車からひょっこり顔を出すマルドアに笑顔を返す。
「ありがとうございます!スライムの核はどうしますか?」
「あんちゃんが好きにしていいぞ。やったのはあんちゃんだしな」
そう言うとマルドアはまた馬車を走らせる準備を始めた。
「王都に着いたら買い取りしてもらおうかな」
エクスはスライムのからだに有った球体───スライムの核を袋へと詰め込み、馬車へ乗り込んだ。
「んじゃ、行くか!」
マルドアはまた馬車を走らせる。
まだ、空は青く。
心地よい風と陽の光に晒されながら馬車は走る。
マルドアとエクスの───英雄に憧れた男達の会話は、王都に着くまで終わらなかった。
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