Prologue 02

村を出た青年はふと立ち止まり、空を仰ぐ。

胸の高鳴りと、少しの不安が青年の胸中を占めていた。


「………王都へ着いたらまず、教会で職業を決めなきゃなぁ…」


それらを誤魔化す様に、青年は一人呟く。

頭を働かせ、別の事を考えていないとどうにかなりそうだった。


脳裏にちらつくのは【騎士になれなかった自分】と、【騎士に認定される自分】と言う、2つの可能性。


少年時代から夢見ていた、憧れの【騎士】。

その為に、ここまで鍛えてきた。剣術を父に。或いは村へ立ち寄った冒険家に。

魔法を得意とする者は、村には居ないからと母へ頼み込み基本的な魔術書を買ってもらい、読み耽った。

村で一番の猟師からは動物の習性を、獣道の歩き方、野営の仕方ですら教わって来た。


これらの全てが騎士に必要かと言われると、青年は自信がない。


無いから、様々な事を教わった。

全てが無駄にならないと信じ、教わった事の全てを飲み込み、自分の中で咀嚼し、何が何でも騎士へと至る為に。


そして、夢に届くまで、あと少し。



そう思った瞬間、何処か他人事の様に思えた。

長い間、騎士になるために頑張って来た事が遠い昔の事のように感じる。


(……あと、少し!)


青年が歩き続けて2時間程経つと、漸く整地された道へと出る。


「ここから1時間程歩けば、馬車の中継所があるんだっけ……」


青年は、腰に携えた小袋の中身を確認する。


(銀貨が15枚と、銅貨が6枚か……)



馬車に乗るためには銀貨2枚が相場だと、村へと立ち寄った冒険家に聞いた事があった。


そう青年は考えながら、歩く。


(まぁ、足りない事は無いよね。きっと)




暫くして漸く中継所の小屋へと辿り着くと、青年は備え付けの椅子に腰を下ろした。



(………馬車が早く来ればいいなぁ)


馬車が一番通る時間帯は父から正午だと教わった事がある。


普段から馬車はこの道を利用する。

遠方から仕入れを終え、王都へと商いを始める際にこの中継所で積荷の整理等を始めるのだ。


また、ここで商人同士がお互いの商品や別の国の情報等を軽く交換し合う場でもある。


青年が一人で待っているのは退屈だ、と背嚢から食事を取り出す。


黙々と母が持たせてくれたサンドイッチを頬張る。


「美味しいなぁ…帰ったらまた作ってもらおうかな」


口から鼻へと抜ける、ツンとした刺激に少し涙を流した。



「ご馳走様でした」


青年が水で口の中を洗い流していると、ガラガラ音を立てながら近付く姿を見る。


「……馬車だ!」


急いで荷物をしまい、馬車を待つ。

それから間もなく馬車が停止する。


「おう、あんちゃん!乗っていくかい?」


無精髭の男が声を掛けると、青年は銀貨を出そうと袋へと手を突っ込む。


「銀貨2枚だが……あんちゃんは腕に自信あるかい?」

男が尋ねる。


「あ、ええと。まぁ。騎士を目指しているので多少は」


青年が銀貨を2枚渡そうとすると男は言った。


「そうか!騎士志望なのか!そりゃあいい!ついでに護衛も頼まれてくんねえか?銀貨1枚で乗せてやるからよ」


思ってもみない提案に、青年は了承する。


「んじゃ、よろしく頼むぜ!俺はマルドア!あんちゃんは?」


差し出された右手を握り返すと青年は名乗った。


「僕は─────」

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