始まりの勇者/序

紅葉

序章

Prologue 01

この世ではない何処か。

花が咲き乱れ、水の流れる幻想的な何処か。

人々が神域と定め、女神が座すとされるその場所で、願う者が1人。


「あぁ…愚かな私を許してください。愛しき子らよ。私自ら救うことの出来ないこの身を許してください」


光輝く髪を持つその者の頬を伝い一筋、また一筋と零れ落ちる雫。


「せめて、私が救えないのならば、私の力を。悪しき者を討つ力を心正しき者へと……!」



両の手の平を組み、希う。


「どうか、世界を………!」




─────その日、世界に1粒の光が落ちた。






「そして、ごめんなさい。貴方に辛い役割を与えてしまう私を、どうか許さないでください」


「本当に、ごめんなさい……」





女神の声は、光に呑まれて消えた。







────────光が落ちてから数日後。



突如、世界中の教会が幻想的な光に包まれた。



「おお……、おお…………!女神様からのお告げじゃ………!」


老司祭が、あるいは年若いシスターが、託宣の巫女とされる者が、一斉に口を開く。


「右手に紋を持つ者、魔を祓う剣と成りて全てを救わん。其は勇を持つ者、勇者なり


そして、意識を戻す。


「………お告げの内容は聞きましたね」


教会に沈黙が訪れる。

女神のお告げと言う、奇跡を目の当たりにしたからか。

または、その言葉を心に刻み付けているからか定かでは無い。


「………勇者様を探すのです!」


「オォォォォォォォォォ!!!!!!!」


教会に、歓喜の怒号が満ちた。





──────それから17年後。とある村で


「…うん、母さん。父さん。シアラ。行ってきます!」


明るい声に

「えぇ、行ってきなさい。立派な騎士になれるように、応援してるわ!」


年月を感じさせる、深い声に

「何かあれば、すぐに戻ってこい。此処はお前の家だ。遠慮するな」


まだあどけない少女の涙声に

「きしさまになったら、あいにきてね!ぜったいだからね!」


背中を押されるように


「………絶対に会いに帰る!騎士になって、帰るから!」



1人の青年が、旅立つ。


「村の皆も、元気で!騎士になるから!僕!」


様々な声を掛けられ、村の入口へと立つ。

青年の旅立ちに、村人の誰もが祝福した。


「行ってきます!」


そう言って青年は、手を大きく振る。



────右手に、不思議な紋様のアザを持つ青年は、村を旅立つ。




後に、この一幕は。




勇者の旅立ちの序章として飾られる事になる。

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