異世界ガールズバンド!

ワラシ モカ

第1話 平中美鈴

 学校の先生たちは、私たちのことを「平中美鈴(ひらなかみすず)」と言っていた。

 それぞれの苗字から一つずつ取ってつけた、奇跡的に名前らしい名前になっていて、私は感動したのだったが、先生はいつもの顔ぶれに呆れかえっていた。

「なんだってまぁ、補習はいつもいつもお前らなんだ。この4バカ娘」

 この先生が私たちの名付け親。口は悪いけど私は好きだ。平中美鈴はテスト明けにいつも補習をくらう私たち4人のことだった。

 1年生の秋の中間テスト明けの補習初日でそう名付けられてから、私はほかの女の子たちに興味を持った。私以外が教室の後ろの方にそれぞれぽつんと座っているので、先生が黒板に書きつけている最中に振り返ってみることにした。窓際の席の亜麻色の髪を持つハーフの女の子、平居さんは、窓の外をぼんやりと眺めてあくびをしていた。私の席の列の最後尾に座る美浜さんは、スラッとしていてかっこいいし、見た目だけで言えば補習を受けるような子には見えない。彼女は黒板の方を見てはいたが両腕で頬杖をついていて集中してそうにない。私と目があうと、彼女はニコッと笑ってくれた。

 最後に廊下側、派手な金髪の女の子。中尾聖子さん。制服を着崩していて、でっかいヘッドホンで音楽を聴いて、しかも寝ていた。いわゆるヤンキーみたいなところがあって、けんかをしたりとか、他の高校の男子と遊びまくっているとか、悪い噂が絶えなくて、きっとこの高校で1番の有名人だ。そんな子がなんで真面目に補習を受けるのかはさっぱりわからなかった。

「痛っ!」

 いつのまにか先生はこちらを振り返っていて、私のことを小突いた。

「こら鈴原、補習追加するぞ」

「すみませーん」

 結局この後の補習中私は先生にマークされてしまった。でも興味の対象は日本史の内容でも先生のスーツについたチョークの粉のグラデーションでもなく、後ろの個性豊かな3人にあった。補習の終わりに、「補習最終日のテストで50点以下だったやつはシメる」と言って(たしか空手部の顧問だった)先生は教室を出ていった。

 私は早速彼女たちの方を振り返った。


 3人とも寝ていた。


「ありゃ?」

 と私は声を漏らしてしまったが、みんな起きる気配がなかった。夕日が差し込む教室に、ちょっと寒い風が吹いてくる。私がその窓を閉めると部活の声も聞こえない静かな教室になった。

 するとどこからか聴こえてくる音楽。犯人は中尾さんで、ヘッドフォンからの音漏れだった。そしてその音楽には聞き覚えがあった。中尾さんのところに近づいて、私は確信した。


 ---私が作曲した曲だ!


 しかも昨日動画サイトにあげたやつ。私はびっくりして強引に彼女を起こした。

「…なんだよてめぇ」

 けだるいその声には威圧感があったがそんなの私は気にすることなくたたみかけた。

「ねぇねぇ! この曲、なんで知ってるの?」

 中尾さんは寝ぼけているのか、私の質問がすぐには飲み込めなかったみたいで、数秒してから、

「曲が良いからに決まってるだろ」

「へぇ、何の曲?」

 いつのまにか起きていた美浜さんが割り込んできた。あげく彼女のヘッドホンを取り自分の耳にあてた。

「なんだよそろいもそろって…」

 中尾さんはくしゃくしゃと髪をかきあげた。こうして見るとかなり可愛らしい顔立ちだ。

 一方で対照的に美浜さんは端正で、カッコいい感じ。背も高いから私はふんふん言ってる美浜さんを見上げる形になる。ある程度聴いていた彼女はうん、と頷いた。

「たしかにいい曲だね。誰が作ったの?」

「フライングペンギンっていう人。どの曲も好きでさー」

 中尾さんは明らかに高揚していて、そして私の持っていた不良のイメージと違うことに結構驚いていた。


そのフライングペンギン、私なんだよねぇ。


「あ。その曲のイラスト描いたの私」

いつの間にか起きていた平居さんが衝撃発言。

「「「えええっ!!?」」」

三人の声がハモる。

「あなたがマリア・パンケーキなの!?」

びっくりしすぎて口が滑った。

中尾さんと美浜さんはポカンとして、逆に平居さんが目を丸くした。

「お、私のそっちの名前知ってるんだ。びっくり」

「そりゃそうですよ。いつもお世話になってます」

「へ? というと?」

「お初にお目にかかります、フライングペンギンこと鈴原コロンです」

「「「はぁーーー!!!??」」」


教室に三人の叫び声が響き渡った。

こうして私たちはなかなかありえない偶然からはじまったのだった。

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