第177話:元ゼウスブレイドの三人
元ゼウスブレイドの三人はしばらくジーエフに滞在していた。
ドロップアイテムを換金したことでダンジョン脱出の翌日から出発することもできたのだが、少しでもジーエフに貢献できればとリッカが二人に提案してくれたのだ。
ヴィルとクックも二つ返事で受け入れてくれたので、最下層の安全地帯にあった看板から察してダンジョンに潜る冒険者のサポートを積極的に行ってくれた。
そこにはロンドも同行しており、あまり評判が良くなかった元ゼウスブレイドだけでは従ってくれないこともロンドが顔を出せばすんなりと従ってくれたのだ。
「俺たちって、こんなにも評判が悪かったんだな」
「それもこれもレインズとライラのせいであろう」
腕を組みながらヴィルとクックが唸っている。
「リッカさんはどうしてゼウスブレイドに加入したんですか?」
そして、これだけの噂が流れている中で加入したリッカの意図がロンドは気になってしまった。
何気ない会話の中での質問だったのだが、リッカはその質問に表情を暗くしてしまう。
「……す、すみません。その、言いたくないことだったんですね」
「いえ、その……うん、大丈夫ですよ」
最初は不安そうな表情を浮かべていたリッカだが、胸の前で力強く両手を重ねると、何かを決意したかのような表情で口にする。
「リッカ、大丈夫なのか?」
「うむ、無理はしない方がいいぞ?」
「ありがとうございます。でも、ゼウスブレイドを抜けるからには、私は過去の過ちを乗り越えないといけないんです」
「……過去の過ち、ですか?」
「はい。私は……私の未熟のせいで、実の姉を殺してしまったんです」
実の姉を殺した。
その言葉を聞いたロンドは何も言えなかった。
「……軽蔑、しますよね」
「いえ……でも、何か理由があったんですよね?」
「言葉通りです。姉は、私を守るためにモンスターの毒を受けてしまいました。毒消しもなく、姉は苦しむ中で私にこう告げたんです」
——私を殺して、と。
「……私は、苦しむ姉を見て、どうすることもできませんでした。そして、そんな姉の願いを叶えるために……姉に、剣を……」
「リッカ、お前は冒険者としてやるべきことをやったと思うぜ」
「ヴィルの言う通りだ。ダンジョンの中で生きたまま放置されるのは恐怖を伴う死である。ならばいっそのこと信頼できる相手に止めを刺してもらった方がいいこともある」
「それでも、私が未熟だったことが原因なんです。ダンジョンに潜る準備も抜けている部分がありました。あの時の自分を、私は今でも呪っています」
姉妹でパーティを組んでいたリッカは冒険者という職業を楽しんでいた。
もちろん、それが悪いわけではない。ただし、楽しさだけが表に出てしまい冒険者としてやるべき準備ができていなかったのはリッカの言う通り未熟だったのだろう。
だが、それはリッカだけの問題ではなく、姉にも原因があったのではないだろうか。
「リッカさんは、自分だけが悪者になろうとしているんですね」
「悪者は私一人なんです! 姉は、いつも私を助けてくれました。それなのに、姉の言いつけを守らずに準備を怠ったから、私は姉をこの手で殺してしまったんです」
そして、姉に大剣を突き刺している場面に出くわしたのがゼウスブレイドだった。
事情を察したヴィルとクックはすぐに同業者に声を掛けたのだが、レインズは一番苦しい時のリッカを笑い飛ばし、ライラは蔑みの言葉を投げつけた。
ここでゼウスブレイドがリッカの下を離れていたなら、リッカが加入するということは起きなかっただろう。
だが、レインズは前衛を探していた――囮にもできる使い捨ての前衛を。
そこで、言葉巧みにリッカの心を揺さぶるとそのまま無理やりに加入させていたのだ。
「俺らもレインズの手前、大手を振って手助けができなかったんだ」
「今考えれば、我らもパーティを抜ける覚悟で物申せばよかったな」
「そんな! お二人が危険な目に遭う必要は一切ありません!」
ヴィルとクックはレインズにバレないようにとダンジョンでは時折リッカのことを庇いながら戦っていた。
実力があるから全てを見通せるわけではない。
レインズは一撃が重い攻撃手段を持っていたからこそ、そこに全力を注ぐために自分で戦況を見極めることを良しとしない。
駒であるパーティメンバーを動かし、全てのお膳立てが整ったと見ればようやく動き出す。
そのおかげで二人は動きやすかっただろうが、それでも危ない場面ではリッカを囮にして逃げ出そうとすることも多かったので内心では気が気ではなかった。
「……リッカさんは、冒険者を続けるんですか?」
ロンドの質問は、リッカがずっと考えていた思いの確信を突いていた。
ゼウスブレイドに加入してからは必死過ぎて冒険者を辞めようかと思ってもいつの間にか忘れていた。
しかし、今は考える時間の方が多くあり、ここ最近はずっと迷っていた。
「……分かりません」
「でしたら、ジーエフへ移住しませんか?」
「……へっ?」
「メグル様なら悪い人でなければ受け入れてくれますし、今のリッカさんには立ち止まって休むことが必要だと思います。それには、ちょっとおかしな経営者がいるジーエフは最適だと思いますよ?」
ロンドの提案はあまりにも以外で、自らの主人である廻をちょっとおかしいと言ってしまっていることにも驚いてしまいすぐには答えを出せなかった。
「時間が掛かっても構いません。メグル様はリッカさんのことをずっと気に掛けていたので、どういった答えを出したとしても笑顔で受け入れてくれますよ」
「……ありがとう、ございます」
真正面から向けられた久しぶりの優しさに、リッカはダンジョンの中にいるにもかかわらず涙を流していたのだった。
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