第176話:ゼウスブレイドのダンジョン攻略⑯
ダンジョンを出て日の光を見たリッカは、自然と笑みをこぼしていた。
「……あぁ、生きてるんですね」
「うむ、その通りだな」
「…………ぅぅん……んぁ?」
「ヴィルさん!」
「おぉ、起きたか」
クックに背負われていたヴィルも目を覚ましたことで、リッカはさらに満面の笑みを浮かべる。
「……生きてんだな、俺達は」
「そうですよ、ヴィルさん!」
「全く、奇跡に等しいだろうな」
喜び会う三人の姿を後ろから眺めていたロンドも笑みを浮かべ、アルバスとジギルは宿屋の方から走ってくる人影を見て苦笑している。
「皆さーん! おかえりなさーい!」
手を振って走ってきたのは廻だ。
そして、その姿を見たリッカ達は顔を青くする。
それは何故か──廻がジーエフの経営者だからだ。
すぐにでも地面に膝をついて謝りたかったが、先んじてアルバスが三人の前に立って声を掛けた。
「おう、小娘。先に逃げた二人はどうなったんだ?」
「帰って来てそうそうその話ですか!」
「当然だろう。俺としては死んでてもらった方がありがたいんだがな」
「何でですか! ちゃんと生きて戻ってきましたよ!」
そんな二人のやり取りを聞いて、リッカは膝をつかなければという考えが吹き飛び安堵する。
しかし、その後の言葉を聞いて呆れ返ってしまった。
「ただ、部屋の荷物を持ち出してジーエフからもさっさと出ていってしまったんですよね」
「「「……はあっ!?」」」
レインズとライラはダンジョンを脱出後、宿屋に戻るとニーナの声掛けも怒声で遮ってジーエフから出ていってしまった。
どれが誰の荷物なのかも分からないのと、お客様を止めることもできないのでニーナもただ見ていることしかできなかった。
「もしかしたら、皆さんの荷物も持っていったかもしれないんです……」
「そうであろうな」
「あの野郎、マジでムカつくぜ!」
「あ、あはは……私の荷物、何もなさそうだなぁ」
ヴィルやクックはそれぞれでしか使えない道具もあるが、まだまだ若いリッカだけは誰にでも使える道具しか持っていない。
持ち運べる量にも限界はあるが、そこまで個人の荷物を持つことを許されていなかったリッカの荷物はとても少ない。
「……アルバスさん」
「分かってるよ」
「全く、本当に世話焼きなんだから」
「さすがアルバス様ですね」
「「「……?」」」
三人が顔を見合わせていると、アルバスは腰に下げていた袋をクックに手渡す。
その中身を見た三人は驚きに目を見開いた。
「こ、これは!」
「モンスター達の!」
「ドロップアイテム!」
「サウザンドドラゴンのアイテムも入ってる。それを換金して、必要なものを揃えろ」
「そうしてください。そして、あの二人を見返すんですよ!」
廻とアルバスの言葉に三人は口を開けたまま固まってしまっている。それも当然で、希少種のレア度4であるサウザンドドラゴンのドロップアイテムは相当な高値で換金することが可能だ。今回は魔石ではなかったのだが、それでもゼウスブレイドが持っていた金額を上回る金額を手にすることができるだろう。
「いや、さすがに貰いすぎだろう」
「そう、だな。それに、我々は何もしていないのも同義であるしな」
「貰うならジギル様が貰うべきですよ!」
「えっ、私? 私もいらないわよ? お金に困ってないしね」
ランドンを一人で倒してしまったジギルはあっけらかんと言い放つ。
「……アルバスよ。本当に、受け取っていいのか?」
「最初からそうだって言ってるじゃねえかよ。いらねえなら捨てるがいいのか?」
「捨てるって、なんでお前はそう極端なんだよ」
「あん? 文句があるならマジで捨てるぞ、ヴィル」
「……あの、あ、ありがとうございます!」
アルバス、クック、ヴィルが言い合っているところへリッカが頭を下げながら大声で割って入った。
「……リッカ?」
「……お前、何してんだ?」
「はんっ! 大剣の小娘の方がよっぽど素直で状況を理解しているじゃねえか」
「ヴィルさん、クックさん、ここは素直に受け取りましょう。それで、見返しながらジーエフのことを宣伝しましょうよ!」
「いいんですか、リッカちゃん!」
「ふえっ!?」
リッカの提案に喜び、その手を取った廻が口を開いた途端にリッカは目を丸くして驚いている。
「おい、小娘! てめえは経営者なんだから行動を考えろと何度も言っているだろうが!」
「あっ! そ、そうでした、ごめん――」
「謝るな!」
「ぐぬっ! ……じゃ、じゃあ、どうしたらいいんですか!」
ここで三人を置いてけぼりにして言い合いを始めてしまった廻とアルバスを見ながら、リッカは固まっていた表情を緩め、ついには笑いだしてしまった。
普通の経営者を相手にしていたら文句を言われてもおかしくはないのだが、相手が廻ならば問題はない。
「あははっ! ……す、すみません。なんだか、おかしくなっちゃって」
「……リッカちゃん……笑った方が、かわいいよ!」
「へっ?」
「うんうん、そうだねー。メグルちゃんに負けず劣らずでかわいいじゃないか!」
「あの、えっ?」
そんなリッカに廻だけではなくジギルまで混ざりかわいいの連呼である。
どうしたらいいのかとリッカはヴィルとクックに助けを求めるが無視され、ロンドへ視線を向けると苦笑を浮かべるだけで動いてはくれない。
「そうだ! 逃げた二人は放っておいて、皆さんで帰還をお祝いしましょう!」
「き、帰還のお祝いだあ?」
「俺達は攻略に失敗したんだが?」
「小娘のことだ、もう準備はしてるんだろう?」
「はい!」
「だったら一緒に楽しみましょうよ! あのいけ好かないレインズがいないんだから自由でしょう?」
「僕も皆さんとお話をしたいので楽しみです!」
「ヴィルさん! クックさん! 行きましょうよ!」
こうも表情豊かなリッカを見るのが初めてだった二人は驚きはしたものの、今の雰囲気も悪くはないかと考えて頷いた。
そして、その日の夜は大宴会となり、リッカはずっと笑みを浮かべていたのだった。
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