第175話:ゼウスブレイドのダンジョン攻略⑮

 安全地帯に戻ってきたアルバス達を見て、ロンドとリッカはホッと胸を撫で下ろしていた。

 アルバスとジギルの二人でランドンを倒した事実を知っているロンドも、まさかジギル一人に任せるとは思ってもいなかった。

 だが、ヴィルとクックを二人抱えて安全地帯まで下がれるのもアルバスだからであり、ロンドはリッカに肩を貸すので精一杯だった。


「本当に、ジギルさん一人で倒してしまったんですね」

「その代償がこれよー。スキルを使うと全身に全く力が入らなくなっちゃうのよねー」


 アルバスの肩に顎を乗せながら話すその口調は弾んでいるようだが、その理由に気づいた者はいない。アルバスですらそういう性格だからと変な割り切りをしている。


「だが、困ったことになったな」

「そうですね。このままだと、動けません」


 現状、ジギルをアルバスがおぶっており、リッカにはロンドが肩を貸している。残るヴィルとクックをどうやって地上へ運ぶのかが大きな問題となっていた。


「……安心、しろ」

「クックさん!」


 そんな時、気を失っていたクックが目を覚ました。

 その声を聞いたリッカが声をあげてすぐ隣に膝を付く。


「……アルバス、助かった。それにジギルも、そこの少年冒険者も」

「ロンドと言います」

「そうか……して、どうして私達を助けに来てくれたのだ? 私達は、お前を裏切ったのだぞ?」

「えっ?」


 アルバスとゼウスブレイドの因縁を知らないリッカがクックとアルバスの間で視線を往復させている。

 ゼウスブレイド側から見れば恨まれてもおかしくはないことをアルバスにしているのだから助けられる覚えはなく、疑問しか浮かんでこない。

 しかし、アルバスとしては至極簡単な答えしか持ち合わせていなかった。


「小娘……あー、経営者様のご命令だったからな。あの立て看板、見ただろう?」

「あぁ。レインズは看板を見て相当ご立腹だったがな」

「うちの経営者様は人死を嫌ってるんでね、可能なら助けて欲しいと言ってきたんだよ」

「……たった、それだけの理由でか?」


 経営者の言葉に逆らうことなどできないというのが通例なのだが、アルバスという男がそれだけで動くような男ではないということもクックは知っている。

 特に少女としか見えない経営者であればアルバスが従うなどと露にも思わなかった。


「メグル様はああ見えてとても優秀な良い経営者様なんですよ。アルバス様もいつも通りに小娘って言ったらいいじゃないですか」

「小娘……くく、なるほど。アルバスと経営者様は良い関係を築けているようだな」

「おい、勝手に決めつけるんじゃねえよ」

「メグルちゃんは可愛くて賢いのよー。アルバスも手の平でコロコロと――」

「叩き落すぞ?」

「私にだけ酷くない!?」


 そんなジギルのツッコミにロンドが笑い声を響かせてアルバスが嘆息する。

 その様子を見たリッカは何が起きているのか分からずに口を開けたままポカンとしていたのだが、クックも声に出してはいないものの笑みを浮かべているので良い雰囲気であることは理解していた。


「さて、本題に入るが、ヴィルは私が背負っていこう。ただ、申し訳ないが戦闘には参加できそうもないが大丈夫か?」

「問題ない。俺がジギルを背負ったまま叩き切ってやる」

「あの、ロンドさん。私は多少動くこともできますし、戦闘になったらロンドさんも参加してください」

「あー、大丈夫だと思います。アルバス様ですし」

「そうそう、こいつの心配はしなくていいわよ、リッカちゃん」

「その通りだ。アルバスは規格外を地で行く規格外だからな」

「おい、てめえら。それは文句だよな? 絶対に文句だろ?」


 リッカ以外の全員がただ黙って笑みを向けて来たことにアルバスは何度目になるか分からない溜息をつくが、方針が決まったとあってすぐに気持ちを切り替える。


「それじゃあ、俺達はさっさと地上に戻るとするか」

「あの、でもレインズさんとライラさんが……」


 リッカ達を見捨てて逃げ出したレインズとライラ。二人がダンジョンに取り残されているのではないかとリッカは心配していた。

 しかし、置いていかれた方のクックは特に気にした素振りを見せていない。むしろ、苛立っているように見える。


「リッカ、気にすることはない。あいつらならボスモンスターが復活していなければ二人でも地上に戻れるだろう」

「でも、迷っていたら?」

「それこそダンジョンなのだから致し方ない」

「そういうことだ。それに、小娘が一番心配していたのは大剣の小娘だったからな。あんたが無事なら後はどうでもいい」

「それは暗に私とヴィルもどうでもいいと言っているのではないか?」

「まあ、地上での態度を見たらな。だが、一番ムカついていたのはレインズに対してだから、お前とヴィルは助けてやるよ」

「恩に着る」


 苦笑を浮かべながらヴィルを背負ったクックが立ち上がると、アルバス達は地上を目指して歩き出した。


 ――道中、アルバスの戦い方を見たリッカが唖然とするのは言うまでもない。

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