第171話:ゼウスブレイドのダンジョン攻略⑪
道中のモンスターをリッカ、ヴィル、クックの三人で倒しながら進んで行くゼウスブレイドは順調に最下層を攻略していき、上層と同じように安全地帯へとやって来た。
だが、ここで目にしたとある看板にレインズは大いに激怒した。
「何なんだ、この看板は! 自己責任など、当然のことじゃないか!」
「ここの経営者は冒険者を舐めているのよ!」
レインズの激怒に呼応したライラも怒声を響かせているが、残る三人には声をあげる元気などなかった。
アークルとの激闘を終えてなおここまでの戦闘をさせられていたのだから当然である。
しかし、そんなことはどうでもいいとレインズはリッカに声を掛けて看板を破壊するように指示を出した。
「で、ですが、レインズさん。この看板には固定魔法が付与されています。私の力では……」
「いいからやるんだ!」
「……はい」
今までの元気な返事ではなく、諦めのような小さな声で返事をしたリッカは大剣を構えて深呼吸をすると一気に振り抜いた。
──ガキンッ!
しかし大剣は看板に弾かれてしまい傷一つ付けることができなかった。
「きゃあっ!」
「……貴様、ふざけているのか?」
「そ、そんなことはありません。固定魔法を付与した術者が私よりも断然強い方だったというだけです」
「黙れ! 俺様のパーティにいてこの程度の固定魔法すら壊せないとかふざけているにも程がある!」
「……すみま、せん」
下を向いたまま謝罪を口にするリッカのことをレインズはもう見てすらいなかった。
その代わりにボスフロアへ目を向けており、これからの戦いについて思考を巡らせている。
それはサウザンドドラゴンを倒す方法であり、また別のことも思考していた。
「……もういい。さっさとサウザンドドラゴンを倒して別の都市に向かう。貴様はせいぜい殺されないように自分の身を守っているんだな」
「……はい」
「うふふ、惨めな人殺しさんだこと。今日から五日間は死なないように気をつけることね」
「──! ……すみません」
ライラはレインズに自らが使える全ての支援魔法を発動させると顎で合図をしてボスフロアへと向かう。
ヴィルとクックも嘆息しながら足を進め、最後にリッカがボスフロアへと足を踏み入れた。
そして、そこで目にしたサウザンドドラゴン──ランドンとの戦闘を得て、リッカは冒険者として最大の分岐点へと差し掛かるのだった。
※※※※
一八階層へとやってきたアルバス達はダンジョンが揺れていることに気がついた。
「おうおう、どうやらアークルかランドンと戦っているみたいじゃねえか」
「今のゼウスブレイドが勝てると思っているの?」
「十中八九無理だろうな」
「そんなはっきりと言っちゃっていいんですか?」
「事実だからな。まあ、早い段階でレインズがスキルを使っちまうとアークルでアウトだろうよ」
ダンジョンを進む道中、アルバスはゼウスブレイドのスキルについて口にしている。ヴィルやクックはもちろん、ライラにレインズについてもだ。
「ヴィルのスキルは小僧と同じで任意で体力があれば何度でも発動できる。クックのは使いどころを見極める必要があるが、あいつに限って間違いは起こさないだろう」
「それなら大丈夫じゃないですか?」
「ただし、そこに指示を出すレインズが面倒だからな。無理に戦わされていたらランドンまでもたないだろう」
「ライラは支援特化のスキルだから、最後の最後まで温存してレインズに使うんでしょうね」
ライラのスキルは支援魔法倍化というもので、通常の倍の支援効果を与えることができる。
しかし、一つの支援魔法に対して一度使用すると二四時間は使えなくなるのでレインズの為に温存することは目に見えている。
そしてレインズのスキルはアルバスやリッカと似ており、一度使うと三日間は使えなくなるものであり、自身の身体能力を全て三倍に引き上げることができる。
アルバスが在籍していた頃は致命傷ギリギリまでダメージを与えた後、レインズが向上した能力を活かしてとどめを刺していた。
レインズは自分の手柄だと思い込んでいるが、実際はアルバスが手柄を譲っていただけであり、本気になればアルバス一人でも倒せるモンスターを多くいた。
だが、レインズのスキルも強力であることに変わりはなく、この能力に迫るスキルを持つ冒険者はなかなかいない。
結局、アルバスが抜けてから歯車が噛み合わなくなったゼウスブレイドから抜ける者は現れなかった。
「なんでヴィルとクックがいまだに残っているのかは分からんが、まあ死ぬことはないだろうな。ただ、あの小娘はどうだろうな」
「死ぬかもしれないってことですか?」
「あるいは、見捨てられるか……そうでしょう、アルバス」
ロンドの疑問にジギルが答え合わせのように口を開くと、アルバスは無言のまま頷いた。
「おそらく、小娘のスキルは俺と似たようなものだろう。そして、それを使ってなおアークルやランドンを倒せないと分かれば囮に使うくらいやりそうだからな」
「そ、そんなことをしますか? 曲がりなりにも上位の冒険者ですよ?」
「そうさせないためにアルバスが頑張っていたのよ。それを知らないレインズとライラは自分達がいればやり直せるとずっと思い込んでいるわ」
「おそらく、ヤバくなれば小娘だけじゃなくヴィルとクックも囮に使われるかもしれないな」
そこまで口にすると大きく溜息をつき、オートとランダムのモンスターを倒しながら二〇階層へと急ぐのだった。
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