第170話:ゼウスブレイドのダンジョン攻略⑩

 誰もが固唾をのんで砂煙を見つめている中、リッカだけは自らの剣に意識を集中させていた。

 ヴィルとクックの言葉を信じて渾身の一刀をアークルにぶつけようと機会を狙っているのだ。


『ギイイイイギャアアアアアアアアアアアアッ!!』

「リッカアアアアアアアアァァッ!!」


 アークルの悲鳴とクックの雄叫びがボスフロアに響き渡る。

 砂煙を吹き飛ばしたその声を契機として、リッカは駆け出しスキルを叩き込もうと大剣を振り上げた。


「これで決めます――破城大斬はじょうだいざん!」


 リッカの大剣に金色の光が顕現すると、光が刀身の倍以上に伸びて光の刃を形成する。

 クックは耐久力を最大限に高めるスキル金剛を発動させてアークルの一撃に耐えてみせた。

 そして、耐えられると思わなかったアークルは困惑し一瞬の隙を見せてしまう。

 結果として、天井を削りながら振り下ろされると光の刃はアークルの左肩から胴体を斬り裂き、そして振り抜かれ地面をも粉砕した。


『ァァァァ……ァァ…………アアアアアアアアッ!?!?』

「これで終わらんのか!」

「クックさん、逃げてください!」

「こんの、年寄りが!」


 金剛のデメリットはスキル発動中は動きが制限されるため緊急回避ができなくなる。

 その分、ほとんどの攻撃に耐えることができるのだが耐えられない攻撃が放たれると成す術が無くなる。

 そして、アークルがやろうとしている攻撃は金剛では耐えられない命を賭した最後の一撃だった。

 ヴィルはスキルまで発動させてクックを抱えるとリッカの方へと全力で投げ飛ばし、自らも戦域を離脱しようと試みたのだが――


「あー、こりゃダメだ」

「ヴィル!」

「ヴィルさん!」


 真っ白な光がアークルを中心に広がりを見せるとヴィルを射程に収めた瞬間――大爆発を巻き起こした。

 二人がヴィルの名前を叫ぶも爆音に掻き消されてしまう。

 爆発の余波でボスフロア全体が大きく揺れて天井や壁からはパラパラと砕けた岩の破片が落ちてくる。

 風に乗って飛んでくる破片を腕で遮りながらヴィルの姿を探そうとしていた二人だが、その姿は意外なところで見つかった。


「……なんだこりゃ?」

「あれは、結界か?」

「ということは……ライラさん!」


 ヴィルの周囲にはドーム型で半透明の白い膜が顕現している。

 その様子を見たクックの言葉を受けてリッカは名前を叫びながら振り返った。


「……全く、私の手を煩わせるんじゃないわよ!」


 だが、ライラは三人に怒声を響かせた。

 ライラはレインズに行為を抱いている。だからこそレインズ以外の為に自分の力を使いたくなかった。

 それにもかかわらずヴィルを助けたのはそのレインズの命令だからなのだが、それでも嫌なものは嫌なのだ。


「特にヴィルとクック! あんた達は長年組んでてそれくらいも分からないの!」

「知るかよ。こちとら命がけなんでな」

「感謝はしているが、それ以上も以下もない」

「ふざけんじゃないわよ! いいわね、二〇階層ではレインズを守る以外には魔法を使うつもりはないからそのつもりで働きなさい!」


 そう言い放つと次にリッカへと視線を向ける。


「それとあんたもただ突っ立てるだけじゃなくて働きなさいよね!」

「す、すみません!」

「そもそも、あんたは前衛なんだから何をあいつらに任せて――」

「おいおい、リッカのスキルで止めを刺すのは当然の判断だろうがよ」

「そうだな。俺達がそれを最善だと判断したのだから文句を言われる筋合いはない」

「……へぇ、私に文句を言うつもりなのかしら? いい度胸じゃないのよ!」


 この場で仲間割れが勃発しそうだとリッカが止めようとした時、ライラの肩に手を置いたレインズが口を開いた。


「お前ら、いい加減にしろよ?」

「あぁ、レインズ! ねえ、こいつらなんて放っておいて私達だけでサウザンドドラゴンを倒しに行きましょうよ? 絶対に倒せるからさあ!」

「落ち着くんだ、ライラ。倒せるだろうが、ここは万全を期して挑むのが一番だろう。もちろん、お前の為だからな?」

「もう! さすがはレインズだわ、あいつらなんかとは大違いね!」


 ライラが甘えるような声でそう口にすると、レインズには見えないように鋭い視線を三人へ向ける。

 一方のレインズは冷めた表情のまま言い放つ。


「サウザンドドラゴンへの止めは俺が刺す。お前達はその隙を作り出すようにしろ、いいな?」

「へえへえ、分かったよ」

「もちろんだ」

「わ、分かりました!」

「……ならいい。行くぞ、ライラ」

「もちろんよ、レインズ!」


 歩き出したレインズの腕に自分の両腕を絡めたライラは横目で三人を睨みつけながら下層へと進んで行く。

 その様子を見つめていたヴィルとクックは嘆息を漏らしながら歩き出したのだが、リッカは自分がこれからどうするべきかを考えていた。


(……私のスキルはもう使えない。サウザンドドラゴンを相手にスキルなしでどうしたらいいの?)


 不安を胸に抱きながら、クックに呼ばれたこともありリッカはなるべく早足で追い掛けて最下層へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る