第167話:ゼウスブレイドのダンジョン攻略⑦

 ゼウスブレイドとライとの戦いは熾烈を極めていた。

 今まで見たきたキングライガーよりも速く、そして力強いことが戦闘を長引かせている結果となっている。

 クックが前線に出たことで一度後方に下がったヴィルはライラから回復魔法を受けて左肩の傷は治っている。

 ここでリッカ、ヴィル、クックの三人が並び立ち、ライラも魔法での援護を行うためにライへ睨みを利かせていた。


「ヴィルは回り込め! リッカは正面から受けに徹しろ! 俺が横から打ち抜く!」


 クックの的確な指示から拮抗していた状態を脱して徐々に優勢になっているゼウスブレイド。

 しかし、ライの機敏な動きだけは封じることができずに決め手を欠く事態になっていた。


「ヴィル! 本気でやっているのか!」

「やってるよ! てめえが打ち抜くんじゃねえのか!」

『グルアアアアッ!』

「くうっ! ま、また雷撃砲が来ます!」


 ヴィルの牽制を回避しながら大きく後退したライは再び体に雷を帯びると、雷撃砲を撃ち出した。

 リッカはクックの作り出した土壁に隠れ、ヴィルは自慢の足を活かして逃げ回る。

 ここで動いたのがライラだった。


「あんた達、情けないわねえ!」


 雷撃砲を放っている間は動くことができず無防備となる。

 しかし体からは強烈な雷が放たれているので近づくことはできないものの、魔法で攻撃を加えることは可能なのだ。


「串刺しにしてあげるわ――アイスエッジ!」


 動けないライの周囲の気温が一気に下がり、そこへ霜を作りながら四つの氷の刃が顕現する。

 切っ先は当然ながらライを向いており、ライラが右手を振り下ろすのと同時にアイスエッジがその体へ襲い掛かった。


『——グルガアアアアッ!』


 全ての刃がライを貫き、雷撃砲も消失してしまう。

 吐血しながらよろめいているものの、その四肢は地面を踏みしめたままライラを睨みつけている。

 だが、ライの敵はライラだけではない。

 逃げ回っていたヴィルが速度を落とすことなく進行方向をライへと抜けてナイフを振り抜いた。


「死ね!」

『グガガ……グルガアアアアアアアアッ!!』


 ライは最後のスキルである《自爆》を発動しようと残る雷撃を暴発させようとしたのだが――


「させねえよ!」


 自爆の兆候というのは熟練の冒険者になれば見極めることができる。

 以前にアルバスがライの自爆を受けた時は完全に油断していたのだが、ここまでコケにされてしまってはヴィルが油断するなどあり得ない。

 故に、自爆が発動する前に二刀のナイフをこれでもかと振り抜くと細切れになったライは雷撃を放出する前に白い灰へと変えられてしまった。


「……ったく、面倒な相手だったな」

「しかし、あれがキングライガーとはな。今まで見てきた個体よりもだいぶ強く感じたが」

「昇華を繰り返していたんでしょうか」


 実際に対峙した三人は揃ってライの実力が今までのキングライガーよりも高かったと疑問を口にしていたが、そんなことはどうでもいい人物が怒声を響かせた。


「てめえらあっ! 時間が掛かり過ぎだぞ!」


 レインズが鬼の形相を浮かべながら三人の前に歩いてきた。

 ゴクリと唾を飲み込むリッカとは異なり、ヴィルとクックは説得を試みる。


「いや、あの個体は通常のキングライガーよりも強かった」

「クックの言う通りだ。そうじゃなきゃ、俺が深手を負うなんて考えらんねえよ」

「うふふ、言い訳も甚だしいわね」


 そこへ不敵な笑みを浮かべたままレインズの隣にやって来たライラが口を挟んできた。


「私の魔法がなければ、今頃あんた達なんて死んでいたのよ? これ以上、レインズと私の足を引っ張らないでちょうだいよね?」

「そういうことだ。行くぞ!」


 表情を変えずにレインズが歩き出すと、その後ろからライラが続く。


「……っんとに、あの女は何なんだよ!」

「レインズの女、なのだろう」

「それは知ってるけどよ! 付き合いでいえば俺とお前の方が長いんだ、それをあんな態度なんて……マジで腐ってるよ、ゼウスブレイドは」

「……俺達も、そろそろ潮時なのかもしれんな」

「ヴィルさん、クックさん……」


 二人を心配そうに見つめていたリッカだったが、その様子に気づいたのかヴィルは頭を掻きながら歩き出してしまった。


「すまんな、リッカ。あいつはあれで照れているんだ」

「……いえ」


 二人の意外な一面を見たリッカは大剣を握る手に力を込めると、その足取りもしっかりしたものになっていた。


(ここで私が頑張らないと、ヴィルさんとクックさんにも迷惑を掛けてしまう。一九階層では、スキルを使ってでもボスモンスターを倒さなきゃ!)


 一つの決意を胸に、リッカは一九階層に足を踏み入れたのだった。

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