第168話:ゼウスブレイドのダンジョン攻略⑧

 一九階層、そのボスモンスターは当初の予定通りにアークルである。

 今回が初陣であるアークルの戦いをその目で確かめようと廻は気合を入れてモニターを見つめていた。


「アルバス達は一七階層にいるのにゃ」

「ボスモンスターが復活してないから早いわね」

「まあ、あの三人ならボスモンスターが居てもこれくらい早く辿り着くのにゃ」

「うふふ」

「な、なんで笑っているのにゃ?」

「ニャルバンもアルバスさん達を信じているんだなって思ったの。モンスター側に立った発言が多かったからさ」


 ニャルバンは神の使いであり、ダンジョン都市の発展を願う者である。

 ダンジョンがより強固なものとなれば評価が上がりダンジョンランキングも自ずと上がっていく。

 それ故にダンジョンを強固なものにする要のモンスターが倒されることを極端に嫌がることが多かった。

 しかし、今回の発言はモンスター側ではなく人間側、つまりアルバス達の立場に立っての発言だったことが廻には嬉しく思えたのだ。


「ぼ、僕はダンジョン都市を発展させることを願う神の使いだけど、その前にメグルを支える神の使いでもあるのにゃ! だから、メグルが人を大切にするなら僕もそうするのにゃ!」

「うふふ、そうなんだ。ありがとう、ニャルバン」

「……ゼ、ゼウスブレイドがボスフロアに入るのにゃ! モニターを見るのにゃ!」

「何々、照れてるの? 照れるニャルバンは可愛いもんねー! 見せて、見せてー!」

「う、うるさいのにゃ! 早くモニターを見るのにゃー!」


 両手をバタバタと上下に振りながら顔を真っ赤にしているニャルバンを見て笑みを浮かべながら、廻はモニターに視線を戻したのだった。


 ※※※※


 目の前に立つモンスターを見て、ゼウスブレイドの面々は固まっていた。


「……アークエンジェルだと?」

「……ちょっと、情報になかったわよ!」

「……情報を仕入れてからの短期間でレア度4の天使族を手に入れたのか?」

「……おいおい、これはマジでヤバいんじゃないのか?」

「……」


 各々が声を漏らしていく中でリッカだけは何も言えないでいる。

 これは上層で決意した想いから来るものだが、内心ではアークルを目の前にして恐怖との戦いを繰り広げていた。


(……こ、怖い! どうして、ただ見られているだけで、こうも恐怖が体を支配するの!?)


 レア度4以上のモンスターは個体によっては威圧を相手に与えることがある。

 それはサウザンドドラゴンであり、アークエンジェルも同様のモンスターとなる。

 リッカ以外のゼウスブレイドはアルバスがいた頃からレア度4以上のモンスターとも多く戦ってきたので威圧に対して耐性を持っているが、経験が少ないリッカにとっては覚悟を決めないと動けなくなってしまいそうな相手だった。


「……リッカ、ここはスキルの使用を許してやる」

「……レ、レインズさん」

「その代わり、絶対にこいつを倒せ。俺の手を煩わせるなよ?」


 ゴクリと唾を飲み込んだリッカは、それでも力強く頷いて大剣を握りしめる。

 今回もリッカに加えてヴィルとクックで戦うこととなり、ライラは支援魔法を発動するだけ。

 ヴィルとクックは顔を見合わせて一つ頷くとリッカよりも前に立ちナイフと拳を構えた。


「……ヴィルさん、クックさん?」

「てめえはスキルを当てることにだけ集中していろ」

「その通りだ。お膳立てはこちらで全て受け持とう」


 二人の背中を見つめるリッカは感動のあまりに泣いてしまいそうになったが、今はまだ泣くことは許されないと自分を律してアークルを睨みつける。

 威圧を受けていたリッカだが、二人のおかげでどうにか動けるようになってくれた。

 傍から見ればパーティとして機能しているように見えるのだが、それは三人だけの話でありレインズとライラから見ればどうでもいいことだ。


「……行け」

「うふふ、サウザンドドラゴンは私達に任せなさいな」


 体力向上、そして速度向上と筋力向上が掛けられたヴィルとクックが一気に駆け出した。

 それを見てもすぐには動き出そうとはしないアークルだったが――突如として奇声を発した。


『キイイイイヤアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

「「「――!!」」」


 耳を劈く奇声が二人の動きを一瞬だが鈍らせ、その隙を突いてアークルが初めてその場から動き始めた。

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