第166話:ゼウスブレイドのダンジョン攻略⑥
──ゼウスブレイドが一八階層でライとの激戦を繰り広げている時、アルバス達は五階層を駆け抜けていた。
今回は当然ながらレベル上げや攻略が目的ではない。廻の心配から端を発した強行軍なのだ。
「でもさあ、本当にやると思う?」
「今のレインズならやるだろうな」
「昔はああじゃなかったんですか?」
ジギルの質問に即答したアルバスは、そのままロンドの質問にも答えていく。
「ランキング上位にいた頃は違ったな。だが、俺が抜けてからランキングを転がり落ちるとすぐに態度が一変しやがった」
レインズは元々から人を見下すことはあったが表に出すことはそうそうなかった。ランキング一位という肩書が居住まいを正していたのかもしれない。
しかし、その肩書を失ってからは取り戻そうと躍起になってしまった。
思った通りに動けない者には罵声を浴びせ、時には手が出ることもあった。
すでにゼウスブレイドを抜けていたアルバスの耳にもその噂は聞こえてきたし、酒場などで実際に目にすることもあったのだ。
「まあ、ランキング一位だった頃は周囲にも迷惑を掛けていたんだ。それがパーティの中だけで収まるようになったのは、他の冒険者からすると良かったのかもしれないがな」
「だけど、今はあの女性冒険者が被害に遭っているってことなんですね」
「あの様子を見ると、最悪の場合はここで死んじゃうんじゃないの?」
「それをさせないために小娘が俺達を向かわせているんだろうが」
そう、廻が懸念したのはリッカがジーエフで初の死人になってしまうことだった。
新しいダンジョンとはいえここまで死人が出ないのは奇跡に等しいのだが、それを成し遂げているのは単に廻の安全対策のおかげだろう。特に
ただし、それが一番かと言われるとそうではない。
ジーエフで死人が出ていない一番の理由は──冒険者が冒険者を助けていることだ。
ダンジョンの中は弱肉強食である。これは冒険者とモンスターだけではなく、冒険者と冒険者でも同じことが言える。
獲物を横取りするような冒険者もいれば、ドロップアイテムを奪うために襲ってくる冒険者もいる。そして、それを返り討ちにすれば結局として冒険者同士での殺し合いに発展するのだ。
それをさせていない、むしろ冒険者同士が助け合っているというのは他のダンジョンではほとんどあり得ない光景であり、他の経営者が見れば笑われるかもしれない。
しかし、廻はそんな助け合いができるダンジョンを作ろうと必死になり、それに賛同した冒険者が集まっている。
ゼウスブレイドはアルバスを憎んでいるし、今回も逆恨みからやってきている。助ける筋合いはないのだが、リッカには全く関係のない話だった。
「あの女冒険者は俺のことすら知らない様子だった。ってことは、俺とあいつらの間で何があったのかも知らないんだろうよ」
「そんな子にあんな態度を取るなんて、許せませんね」
「本当よね。あんな可愛い子に……私が斬り殺してやろうかしら」
「……お前だけ心配の方向性が違うんじゃねえのか?」
「……ジギル様、殺してしまってはメグル様のご意志に反しますよ?」
「おっとこれは失言、あははー」
頭を掻きながら笑っているジギルにアルバスとロンドは苦笑を浮かべる。
「それにしても、あいつらはそろそろ一九階層に到着する頃だろうな」
「となると、アークルが初めての戦闘をするってことですね」
「アークエンジェルだっけ? 天使族は確かに面倒だよねー、私も苦手だわ」
天使族は魔法に特化したモンスターが多いのだが、その中でもレア度4で上位に位置しているアークエンジェルは接近戦にも対応している。
さらに天使特有の羽があるので制空権を握り常に優位な立ち位置から戦いを運ぶことを好んでいる。
「レインズが本気でやれば勝ちはあるだろうが、そうするとランドンとの戦いでは絶対に勝ち目はなくなるだろう。それを避けるためにどうするか……ったく、見ものだったのによう」
経営者の部屋からただ見ているだけなら戦い方を確認することもできただろうに、アルバスは頭をガシガシと掻きながら嘆息している。
「だったら、もっと急いで直に戦いを見ることにしませんか? 僕も気になりますし」
「……ほほう、小僧にしては珍しくいい提案をするじゃねえか」
「うふふ、そしてら私も戦えるかもしれないしね」
「……えっと、ジギル様? それはモンスターとってことですよね?」
「さあ、どうかしらねー」
口笛を吹きながら誤魔化そうとしているジギルに今度はロンドが嘆息している。
だが、急いだ方がいいのは変わりないので三人はさらに速度を上げて下層へと下りていく。
ゼウスブレイドがボスモンスターを倒してからそれほど時間も経過していないので復活していない。
無駄な戦闘を避けながらの道程になったこともあり、三人は過去類を見ない速さで一五階層までやってきていた。
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