第165話:ゼウスブレイドのダンジョン攻略⑤

 リッカが満身創痍の中でやって来たのは一八階層。ここのボスモンスターはライである。

 ここでもリッカに戦わせるとばかり思っていた面々だったが、レインズからは意外な指示が口にされた。


「リッカとヴィル、それにクックが相手をしろ」

「レインズ! なんで俺まで最初から戦わないといけないんだよ!」

「ふむ、俺もか?」


 ヴィルは怒り狂い、クックは冷静に疑問を口にする。

 選ばれた三人の中でヴィルは予想通りだとクックは思っていたが、まさか自分の名前まで呼ばれるとは思ってもいなかった。


「クックは念の為だ。一七階層のスティンガーが予想以上に強かったからな。昇華を何回かしているのだろうが、一八階層のモンスターが上の階層よりも弱いとは考え難い」

「確かにな。……ならば、俺は様子を見ながら手を加える程度で問題ないな」

「てめえ、クック! なら俺様は――」

「クックの言う通りだ。リッカとヴィルは協力して確実にボスモンスターを倒すんだ」

「レインズ!」


 ヴィルが詰め寄ろうとした時、その間にクックとライラが立ち塞がり睨みを利かせる。

 長い付き合いとはいえ、ゼウスブレイドにとってレインズは絶対的な存在だ。そんなレインズに意見を言える立場にある者はどこにもいない。


「……くそっ! 分かったよ、やればいいんだろ!」

「あの、ヴィルさん。よろしくお願い――」

「うるせえな! さっさと倒せばいいんだよ、黙ってろ!」

「す、すみません!」


 リッカの言葉を怒声で遮るとライラへ支援魔法を使うよう口にする。

 ライラはレインズに視線を向けると一つ頷いて見せたので仕方がないと言わん感じで支援魔法の体力強化を発動した。


「しっかりやりなさいよ」

「ふん! 分かってるよ!」


 安全地帯セーフポイントからさっさとボスエリアへ進んで行くヴィルをリッカが追い掛ける。残る三人はクックを先頭にゆっくりとした足取りで侵入した。


『ウオオオオオオオオォォォォン!』

「……なんだ、キングライガーかよ」


 ヴィルが余裕の笑みを浮かべたのも当然と言えば当然かもしれない。

 スティンガーとキングライガーは同じレア度4ではあるものの、実力で言えばスティンガーの方が上なのだ。

 仮にキングライガーの方が昇華をしていたとしてもヴィルにとってはスティンガーの方が難儀なモンスターだった。


「こいつならお前だけでも倒せるんじゃねえのか?」

「で、でも……」

「んだよ、マジで面倒臭いなぁ」


 溜息混じりにそう口にしたヴィルは頭を掻きながら前に進み出る。

 明らかに舐めた態度のヴィルだが、ライはそこへ飛び掛かることはせずんじっくりと相手を観察している。

 その様子にリッカは違和感を覚えていたがヴィルが気づくことはなかった。


「さっさと終わらせて楽させてもらうぜ!」

「ダ、ダメです、ヴィルさん!」

『ガアアアアアアアアッ!』


 ライはストナのようにスキルを温存することはなかった。これはヴィルが完全無警戒で近づいてきたことが一番の理由にあげられる。

 一歩目から新たに習得した《速度上昇》スキルを発動させて鋭い爪を振り抜くと、ヴィルの左肩を深く抉り取った。


「が……いってええええええええぇぇっ!!」

「ヴィルさん!」

『グルアアアアアアアアッ!』


 声をあげたリッカが動揺している様子を察したライは即座に標的を変更すると、雷撃砲らいげきほうが放たれた。

 ハイライガーの時とは比べ物にならない質量を誇る青白い光がリッカめがけて突き進む。


「スキルを――」

「ふんっ!」


 自らのスキルを発動しようとしたリッカだったが、その肩に手が乗せられるのと同時にクックが入れ替わるようにして前に出る。

 そして、地面を殴り飛ばすと土がせり上がり雷撃砲を受け止める壁になってくれた。

 土壁の前では青白い光が弾け飛び周囲に放電していく様子が後ろ側からでも見て取れる。


「……こ、これが、キングライガーの雷撃砲なの?」


 驚きの声を漏らしているリッカだったが、戦いは終わっていない。むしろヴィルが負傷したことで不利な状況に追い込まれている。


「立て。俺とお前でキングライガーを倒すぞ」

「は、はい!」


 雷撃砲が終息していくのを確認したクックは土壁からその身を晒してキングライガーを睨みつける。

 リッカも大剣を握りしめて出て行くと、キングライガーの視線とぶつかってしまう。


「ひいっ!」

「怯むな! それに、お前のスキルはサウザンドドラゴンのために取っておくんだ、このまま行くぞ!」

「は、はい!」

「ヴィルもいつまで転がっているんだ! やれることをやれ、囮くらいにはなれるだろう!」

「くそったれがあっ! ……やってやる、こいつを殺せるならやってやるよ!」


 左肩を右手で押さえながら立ち上がったヴィルは汗を大量に流しながらもキングライガーを睨みつけている。

 ライラはクックへ支援魔法を発動させて援護のタイミングを見計らっているのだが、一人だけ表情を変えずに戦いを見つめている人物がいた。


(……何をしているんだ、このバカ共は!)


 ただし、心境はイライラを募らせておりキングライガーだけではなく仲間にも鋭い視線を向けているレインズなのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る