第164話:ゼウスブレイドのダンジョン攻略④
一七階層のボスモンスターはストナである。
スティンガーへと進化を遂げているストナから放たれる雰囲気は今までのボスモンスターとは比べ物にならない程に強烈だ。
対峙しているリッカはゴクリと唾を飲み込み大剣を構えているのだが、ここでも他のメンバーは動こうとはしなかった。
「苦戦するようならヴィルが倒せ」
「えぇー、面倒だなー」
「報酬は弾んでやるよ」
「……へへっ、さすがはレインズだな」
そんな会話がなされている目の前ではリッカが駆け出してストナへ斬り掛かっていた。
大剣使いとしては素早い方なのだがストナから見れば止まって見えてしまう速度であり、当然ながら倍以上の連撃がリッカへと襲い掛かる。
一気に防戦一方となってしまったリッカに体力向上の支援魔法がライラから掛けられるが、それでもリッカが攻勢に出ることはできない。
装備がボロボロになり、リッカ自身にも傷が刻まれていく。
このままでは何もできずに斬り殺されてしまう、そう判断したレインズは鬼の形相を浮かべながら顎でヴィルに合図を送る。
「これで報酬ゲットだぜ。さっさと攻略して、大都市で女の子と遊びたいぜー」
肩を回して前に進み出たヴィルの両手にはナイフが握られている。
ストナもヴィルの存在に気づいたのかリッカから距離を取り静かに見据える。
呼吸が整わないリッカは遅れてヴィルに気づいたのだが、その表情はまるで絶望を見つけたかのように真っ青になっている。
「お疲れさん。これでお前の報酬は俺のもんってことだ」
「ま、待って、ください。私は、まだ、やれます」
「文句は俺じゃなくてレインズに言えよなー」
「あっ……す、すみま、せん」
リッカが引き下がったのを確認したヴィルは、まるで見下すかのような視線をストナへ向ける。
「スティンガーか……へへっ、俺様の速度について来れるかな!」
「――!」
まるでその場から消えてしまったかと錯覚するほどの速度でストナを間合いに捉えたヴィルは逆手に握るナイフを何度も振り抜く。
初見で受けられる者は皆無だと思われたヴィルの奇襲だったが、ストナは冷静に捌き切るとさらに反撃まで見せてきた。
「うおっ!」
奇襲で終わりだと思っていたヴィルは予想外の反撃に声をあげる。
だが、そこで終わらないのがゼウスブレイドのヴィルだった。
ジーエフではない別の都市で手に入れた
「はっはあっ! これでてめえは動けない的……だ……」
「……!」
動きを封じた、そう思った直後からストナの体から炎が発現する。
一〇階層のゴーストパラディンが見せた《炎の鎧》はスティンガーへと進化したストナもそのまま継承していたのだ。
足元の氷は一気に溶けてしまい、ストナは虚空の瞳でヴィルを見据える。
「……」
「て、てめえ、ふざけやがって! いいぜ、俺の本気を見せてやるよ!」
「ヴィル!」
怒りに我を忘れているヴィルへクックが声を掛ける。
しかし聞く耳を持たないヴィルは自らのスキルを発動させた。
「いくぜ――疾風迅雷!」
「――!」
ヴィルの体がふらりと揺れた直後に姿を消すとストナの体に大きな衝撃が与えられた。
大きくよろめきながらも後退を選択したストナだったが、そこへさらなる衝撃が加えられたことで理解する――目の前の相手は自分よりも速いのだと。
姿が見えなくなったヴィルを認めたストナは《硬質化》を発動して攻撃に備え、防御を無視して相手を視界に収めることを最優先させる。
一定のリズムで攻撃を仕掛けてくるヴィルに対して、機敏な動きを封じて待ちの構えを取るストナ。
硬質化を発動しているとはいえダメージがないわけではない。蓄積していけば外装が砕かれて白い灰になる時も近くなるだろう。
それでもストナは待ちの構えを解くことはなかった。
「これで終わりだぜ!」
疾風の如き速度で迫り、迅雷の如き一撃を放とうと腰に隠し持っていた一等級の短剣を両手で握り締めたヴィルが振り抜いた。
「――!!」
そこへストナのカウンターが発動する。
右の剣でヴィルの一撃をいなし、《速度上昇》が発動された左の剣は首を刎ねようと横薙ぐ。
何が起きたのか理解できなかったヴィルは迫る刀身を前にただ見つめることしかできなかった。
「ふんっ!」
「――!!!」
しかし、左の剣がヴィルの首に届く直前、強烈な一撃がストナの腹部を打ち抜きそのまま壁に背中から激突してしまう。
直後には巨大な炎の塊が無数に降り注ぐと、さすがのストナも成す術なく白い灰へと変えられてしまった。
「……くそ……くそっ……くそったれがあっ!」
命を拾ったヴィルだったが、レア度4のスティンガーに実質的に負けたことでそのプライドはズタズタに斬り裂かれていた。
(……どうやら、新しい奴を探さないといけないかもなぁ)
ヴィルを、クックを、ライラを、そしてリッカを見つめながらそんなことを考えていたレインズ。
使えない駒はさっさと斬り捨て、そして取り換えていくことも躊躇わないその性格が、ジーエフ攻略後のことを考え始めさせていた。
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