第163話:ゼウスブレイドのダンジョン攻略③
「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「——!」
「くっ!」
黄金に輝くゴーストパラディンの剣とスキル《炎の鎧》がリッカへと襲い掛かる。
鋭く重い一撃を受け止めても炎がリッカの肌を焼き、徐々にではあるがその体力を奪っていく。
ゴーストパラディンとの戦いでは今までの攻略法が当てはまり最初は善戦していたものの、ここまで一人で戦ってきたツケが表面化してしまった。
「……ちっ! ライラ、手助けしてやれ」
「私? ……はぁ、仕方ないわね」
レインズの指示に嘆息しながら一歩前に進み出たライラは一等級の杖を構えて支援魔法を発動する。
リッカの体を赤い光が包み込み体力強化が施された。
「……ライラさん?」
「リッカ! さっさと片付けちゃいなさい!」
「は、はい!」
ライラの怒声にリッカはビクリと体を震わせたが視線はゴーストパラディンから逸らせてはいない。
腰を落として一気に駆け出すと大剣を振りかぶり渾身の袈裟斬りを放つ。
迎え撃とうとゴーストパラディンが黄金の剣を振り上げるが、リッカの大剣も一等級の武器だった。
激突した直後に黄金の剣がわずかに欠けると、休む間もなくリッカは大剣による連撃を繰り出していく。
三合、四合、五合と打ち合うにつれて黄金の剣がさらに欠け、ヒビが広がり――ついには武器破壊を成し遂げた。
「――!」
「はああああああっ!」
燃え盛る《炎の鎧》を気にすることなく放たれた上段斬りがゴーストパラディンを左右に分かつと白い灰がボスフロアに舞い踊った。
リッカが勝利したのを確認したライラはすぐに体力向上の魔法を解除する。
すると、リッカの体にはドッと疲れが押し寄せてきて大剣を地面に突き刺し荒い呼吸を繰り返す。
「かはぁ、はぁ、はぁ、はぁ……くぅっ……」
「遅いぞ!」
「……す、すみま、せん」
「……なんだ、その目は。俺に逆らうつもりか? ゼウスブレイドを抜けてもいいが、お前をパーティに入れる奴がいるかどうか考えてみろよ?」
「――! ……そんなつもりは、ないです」
「だったらさっさと行くぞ! ったく、面倒を掛けさせるな」
白い灰を蹴り上げながら歩き出したレインズ。クックとヴィルが続き、最後にライラが歩き出したのだが、ライラだけがリッカの横で立ち止まる。
何を言われるのかと思い顔を上げると、下卑た笑みを浮かべながら言い放つ。
「私の魔力分、もっと働いてちょうだいね?」
「……は、はい」
「あなたがゼウスブレイドにいられるのはスキルのおかげ。レインズに感謝することね――人殺しさん」
「――!」
口元に手を当ててライラも歩き出す。
下を向き俯いたまま動けなかったリッカだが、レインズの怒声が階段から聞こえてきたことで無理やりに歩き出した。
「……冒険者で生きていくには、ここで頑張るしか、ないのかな」
不安を胸に抱きながらのリッカは明らかに動きを悪くしていく。
ライラの支援魔法を受けながらようやく戦えている状況なのだが、その魔法が切れると無理やり体を動かしていることも災いして普通よりも数倍の疲れが押し寄せてくる。
十一階層からはライラだけではなくクックとヴィルも戦闘に参加しているのだが、それでもメインで戦っているのはリッカであり、二人は討ち漏らしを仕方なく倒しているだけ。
この時点でレインズだけではなく三人も苛立ちを募らせ、その雰囲気をリッカも感じ取っている。
(……あぁ、ここで続けるより、このまま死んでしまった方が楽なんじゃないだろうか)
そう思いながらも体は生を求めて自然と大剣を振るっていく。
肉体と精神がズレたまま、リッカは――ゼウスブレイドはジーエフの主力が控える一七階層へと到着した。
※※※※
――ゼウスブレイドが攻略を進めているジーエフのダンジョン入り口に、三人の冒険者が立っていた。
一人は使い古された大剣を背負い、一人は日の光を浴びて輝く直剣を腰に下げ、一人は緊張の面持ちで青と銀が美しい流線を描く剣を手にしている。
「ったく、なんで俺がこんなことをしなきゃならねえんだよ」
「まあまあ、これも経営者様のご指示なんだから仕方ないんじゃないの?」
「ぼ、僕が同行していいんでしょうか?」
「いいのよー。ロンド君はアルバスの弟子なんだから師匠の戦い方を見て学びなさい」
「俺は師匠じゃねえよ。ってか、なんでジギルまで来るんだよ」
「私はメグルちゃんにお願いされたのよ」
嘆息しつつ頭をガシガシと掻いたアルバスは大股で歩き出す。
その背中を見つめながら笑みを浮かべているジギルはとても嬉しそうだ。
そんな二人を視界に収めているロンドはゴクリと唾を飲み込むと力強く歩き出す。
(アルバス様だけじゃなく、ジギル様の戦いまで間近で見ることができる。同行を許されたんだから、絶対に成長するんだ!)
貪欲な姿勢を見せるロンドを横目で見ていたアルバスは誰にも気づかれないように笑みを浮かべていた。
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