第162話:ゼウスブレイドのダンジョン攻略②
ゴブゴブは昇華と進化を繰り返しレア度3であるゴブリンジェネラルになっている。
それでもゴブリン種であることに変わりはなくレア度3の中でも最弱の部類に入ってしまう。
ゼウスブレイドとしては当然ながらリッカが一人で対峙しており、さっさと倒してしまうだろうと予想していたのだが――
「こいつ、なんでこんなに速いの!?」
「ゴブフフフッ!」
ライやストナと同様にゴブゴブも一発で引き当てたゴブリンジェネラルよりも動きが良く、そして強い個体に成長していた。
そんなこととは知らないレインズから見れば、たかがゴブリンジェネラルに苦戦しているリッカに苛立ちが募り、そして怒声を響かせることになる。
「リッカ! さっさと倒せと言っただろうが!」
「すみません! でもこいつ、普通のゴブリンジェネラルよりも動きが――」
「言い訳はいらん!」
「は、はい!」
「ゴブフフフッ!」
実際に対峙しているリッカにしか分からないゴブゴブの実力に疑問を抱きながらもレインズの期待に応えようと大剣を振るう。
だが、見る者が見ればゴブゴブが普通のゴブリンジェネラルとは異なっていると分かったかもしれない。
(このゴブリンジェネラル、どうして鋼の剣じゃなくて鋼の大剣を扱っているの! それに、体も一回り大きくない!?)
今までなら力押しで倒しきれていた相手が鍔迫り合いを見せる姿に、リッカの中で築き上げていたゴブリンジェネラルとの戦い方に修正が加えられていく。
目の前にいるゴブリンジェネラルとどう戦えばいいのかを思案し、そして攻略法を構築していく。
「これなら、どうだ!」
「ゴブフォ!?」
戦闘中に自らが構築した攻略法を破棄し、そして再構築するのは難しい作業である。
それをいとも簡単にこなしてしまうのがリッカの一つの強みになっていた。
今も鋼の大剣をリッカの技術によって跳ね上げると、渾身の一振りから胴を薙ぎ両断していた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「ふん! 何をこんなザコ相手に息を切らしているんだ。さっさと行くぞ、ここはまだ七階層なんだからな!」
「は、はい……」
こんなはずではなかったとリッカは思っているが、誰もその言葉を聞こうとはしない。
レインズがさっさと歩き出すとその背中を追い掛けて残り三人も歩き出してしまう。
「……もっと、頑張らなきゃ」
そんな言葉を誰もいなくなった七階層のボスフロアで呟くと、駆け足で階段を下りていくのだった。
※※※※
気分を害する戦いが続き、廻は一度モニターから視線を外すと一呼吸入れるために冷えた水で喉を潤していく。
アルバスは変わらずモニターから視線を外しておらず、そんな横顔を廻はジッと見つめていた。
「……何か言いたげだな?」
「……なんで分かるんですか」
「そんな視線を感じたからな。まあ、小娘が言いたいことも分からんでもない」
冒険者とはこういうものだと言われれば何も言い返せないのだが、それでもリッカに対するゼウスブレイドの態度を肯定できるほど廻はできた人間ではない。
一人の女の子が苦しんでいれば助けたくなるし、近くにいてそれを助けないレインズ達に苛立つのは当然のことだった。
「アルバスさんはどうしてそうも冷静に見ていられるんですか?」
「あいつらがどう動くのか、手に取るように分かるからな」
「それは、昔から変わっていないということですよね?」
「そうとも言うな。まあ、だからこそランキングを落としているんだよ。多少なり行動に変化があればこうはならん」
ここでようやくモニターから視線を外したアルバスは目頭を押さえながら軽く頭を左右に振る。廻とは違い水を一気に煽ると大きく息を吐き出した。
「……なんとなくだが、大剣の小娘を加入させた理由が分かった気がする」
「そうなんですか?」
「だが、まだ何か隠しているんだろうな」
アルバスはリッカが見せた対応力に感心していた。
だが、対応力だけを見ればリッカ以上の実力者で中堅やベテランの冒険者がいただろう。
それにもかかわらず名前を聞いたこともない冒険者を選んだということは、対応力以上の何かが存在しているはず。例えば――
「……まあ、十中八九スキルだろう」
「スキルって、アルバスさんが見せたすんごい一撃とか、ロンド君が速くなったあれですよね?」
「お前、ちょっとは言い方ってもんを……いや、いいか。そう、それだ」
「あっ! 今ちょっと面倒臭いって思いませんでした!」
「思ったがそれがどうしたんだ?」
「思ったって言いましたね! こっちは真剣に考えて質問してるのにー!」
「……まーた言い合いをしているのかにゃ?」
ニャルバンが呆れたように口を挟むと廻が仕方なくといった感じで引き下がる。
その様子を見たアルバスは小さく笑いながらも話を続けてくれた。
「小娘の言っていることは間違っちゃあいない。小僧のスキルは効果は低いが連続で使用できるが、俺のは威力は高いが制限がある。俺の代わりに入ったってことは、おそらく一発の威力が高いスキルを大剣の小娘が持っているってことだろうよ」
「アルバスさんと似たようなスキルってことですか?」
「そこまでは知らん。だが、可能性はあるな」
少し目を離した隙にゼウスブレイドは一〇階層まで到達している。
ここまではリッカ一人で戦闘をしていたのだが、一〇階層のボスはゴーストパラディンで昇華を四回行っている進化素材候補だったモンスターだ。
全く同じ光景に廻は心配が尽きなくなっている。
ここでもゼウスブレイドはリッカだけに戦わせているのだから。
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