第160話:ニーナの対応

 ゼウスブレイドが向かった先は宿屋である。

 冒険者としては当然であり、そして対応はニーナに任された。


「いらっしゃいませ」


 柔和な笑みを浮かべているニーナを見たゼウスブレイドの面々は自然とホッとした表情を浮かべていたのだが、レインズだけは例外だった。


「五名だ」


 ぶっきらぼうにそう言い放つと机を指だトントンと叩き始めた。

 しかし、多くの冒険者を対応してきたニーナにとっては慣れたものでいくつかの質問を口にする。


「見たところ男女のパーティでございますが、お部屋はお分けしますか? それと、分ける場合はそれぞれの部屋は近い方がよろしいですか?」

「当然だろう!」

「でしたら、二階に上がっていただき突き当りを右へ行った奥の部屋をお使いください。向かい合わせでそれぞれ一部屋ずつになっております」

「ならさっさと鍵を――」

「こちらになります」


 すでに準備済みだった鍵をレインズが言い終わる前にスッと差し出すと、呆気にとられたような表情を一瞬浮かべたもののすぐに気を取り直したのか雑に受け取ると二階へと上がっていってしまう。

 ここでも加入したばかりの女性冒険者だけがペコリと頭を下げて駆け足で追い掛けていった。


 ※※※※


 荷物をそれぞれの部屋に置くと、ゼウスブレイドは一旦男性陣の部屋に集まっている。

 当然ながらダンジョン攻略についての話し合いなのだが、一人だけ全く見当違いのことに思考が働いていた。


「くそっ! アルバスの奴、今さらこんなところに現れやがって!」

「もう、あいつのことはどうでもいいじゃないのよ」

「黙れ、ライラ! 俺達はあいつのせいでランキングを落としているんだぞ、それなのにこんなところでのうのうと暮らしやがって!」


 ライラと呼ばれた女魔法師はレインズの態度に嘆息を漏らしている。


「だが実際のところ俺達があいつに何かをするわけにはいかない。ここの経営者様と契約をしているんだからな」

「まあ、こんなダンジョンの経営者に何を言われようと逃げちまえばいいんだけどさー、それよりもとっととダンジョンを攻略して移動しようぜー。砂漠のど真ん中とか、暑すぎてやってらんねえよー」


 冷静に分析して話をしているのは武闘家のクック。そしてダラダラと語尾を伸ばして話をしているのはシーフのヴィルだ。

 ライラ、クック、ヴィルの三人はアルバスと共にゼウスブレイドとして行動していたので何があってアルバスが抜けたのかを知っている。


「……あ、あの、さきほどの方と何か――」

「リッカは黙ってろ!」

「ひいっ! す、すみません!」


 そして、唯一アルバスとゼウスブレイドの関係を知らないリッカと呼ばれた大剣使いのリッカはレインズに怒鳴られて竦んでしまう。

 気弱な少女にアルバスの代わりが務まるのか周囲は疑惑の視線を送っていたのだが、実のところリッカが加入してからのゼウスブレイドは僅かではあるものの冒険者ランキングを上昇させている。

 今回のジーエフ攻略に関しても中心にいるのはリッカだった。


「……ちっ! それじゃあダンジョン攻略について話し合うぞ!」


 アルバスへの嫌がらせは後回しにしたレインズは、クックが言う通りダンジョン攻略について話し合うことにした。


 ※※※※


 換金所に戻っていた廻は憤慨していた。

 アルバスへの態度が怒りの全てなのだが、そんな廻を宥めているのはそのアルバスである。

 面倒臭そうな顔をしながら宥めており、その様子を見ていた冒険者からはクスクスと笑い声が漏れていた。


「――天下のアルバスさんが女の子を宥めてる」

「――二人の関係性を知っていても何だか面白いな」

「――いやーん、お父さんと娘みたいー!」

「誰だ親父とか言った奴は!」


 最後の発言だけは見過ごせなかったのか怒鳴っていたものの、言った人物はササっと姿を消してしまい誰なのか分からずじまいだった。


「……ったく。おい、小娘。いい加減にしろよな。リリーナにも迷惑を掛けてるんだからよ」

「ぶー! 何なんですか、あの人は! アルバスさんは悪くないのに関係を切れだの、俺達を見捨てただの、臆病者だの、見当違いのことばかり! あぁー、思い出しただけでもムカついてきましたよ!」

「だから落ち着けっての! 俺は何とも思ってないのにてめえがそんなんじゃあ何もできないだろうが!」

「そんなことを言われても! それにジギルさんにもてめえ呼ばわりだなんて……腹が立つぅぅぅぅっ!」

「あら、私のことにまで怒ってくれるの?」


 あの場にいたジギルも換金所に一緒に戻ってきている。

 廻の言葉を聞いて嬉しそうに笑っているのだが、アルバスはジト目を向けて嘆息した。


「お前も説得しろよ」

「まあまあ、これがメグルちゃんの良いところなんだからさ。とはいえ、あいつらも一流の冒険者だからある程度の準備はしていると思うわ。経営者の部屋からダンジョンの状況を見てた方がいいんじゃないの?」


 良いところ、とは言ったものの苦労性のアルバスを良く知っているジギルはサラリとフォローを口にする。


「ぐぬぬ……分かりました。行きましょう、アルバスさん!」

「お、俺もかよ!?」

「当り前じゃないですか! ゼウスブレイドがぎゃふんという姿を一緒に見るんですからね!」

「換金所はどうするんだよ!」

「こちらは私にお任せください」


 間髪入れずにリリーナから声が掛かった。


「だったら私もサポートしてあげる。主に、文句を言う冒険者への威嚇だけどね」

「ジギル様がいてくれるなら心強いですね」


 いつの間にか意気投合していたリリーナとジギルが満面の笑みでアルバスへ振り返ると、仕方がないとばかりに頭をガシガシと掻きながら頷いた。


「よーし、それじゃあ行きますよ!」

「へいへい」


 二人が経営者の部屋へ向かうのを見届けたリリーナとジギルは顔を見合わせると苦笑を浮かべるのだった。

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