過去の清算
第159話:ゼウスブレイド
――そして、その日がやって来た。
経営者の部屋には一度も来訪したことのない冒険者が迫っている音が鳴り響き、その情報は契約者の四人にも伝えられた。
最初はどこに立ち寄るのか、やはりアルバスがいる換金所だろうか、そんな予想を立てていたのだが――
「ジーエフの経営者はいるかああああああぁぁっ!」
何事だろうか、門のところまで来た冒険者パーティの先頭に立つ男が大声で経営者を呼び出そうと大声をあげたのだ。
ジギルですら経営者には注意を払っているにもかかわらず大声で呼びよせようとするのはどうなのだろうかと思った廻だったが、最初から顔を合わせるつもりだったので男の要望に応えることにした。
もちろん一人ではない。今もアルバスと一緒に換金所で待機していたのでそのまま門の方へと移動する。
何故かジギルもついて来ているのだがそこには何も言わなかった。
「……い、いいんですか、アルバスさん?」
「問題ないだろう。というか、あいつらもジギルが見張っていると分かれば荒事には出られないだろうからな」
「あ、荒事って……まあ、私にはアルバスさんがいるから大丈夫ですけど」
「俺が五人からお前を守れると思っているのか?」
「はい。私はアルバスさんを信じています。ジギルさんに声を掛けていなかった時点で大丈夫だと思っていましたから」
「……そうですか」
照れ隠しだろうか、アルバスは頭をガシガシを掻きむしりながら少しだけ早足になる。
廻はその様子に笑みを浮かべ、ジギルへ振り返ると同じように笑っていた。
門の前にはアルバスが言った通り五人の冒険者が立っていたので、彼らがゼウスブレイドで間違いないのだろう。
しかし、何故だろうか。廻はゼウスブレイドから敵意や恐怖といった感情を読み取ることができず、それ以前に何も感じることができないでいる。
こんなことは初めてだと思いつつ歩いていると、あちらからもこちらを認識したのだろう――直後、何も感じられなかったのが嘘のように嫌悪感を露わにしてきた。
「貴様、アルバス!」
「久しぶりだなあ、レインズ。お前達も……って、一人だけ知らん顔がいるが」
「は、初めまして! 私は最近加入させてもらいました――」
「挨拶なんていらん!」
「す、すみませーん!」
苛立ちを露わにしているレインズはアルバスの目の前までやってくると下から睨みつけながら声を荒げる。
「こんな小さなダンジョン都市で換金所の管理人たあ、ずいぶん落ちたもんだよなあ、あぁん!」
「なんだ、慰めに来てくれたのか? 優しいところもあるんだなぁ」
「黙れ! 俺たちはここにサウザンドドラゴンがいると聞いてわざわざ来てやったんだ! だがなあ、それが嘘だったり期待外れだったらどうなるか分かってるんだろうなあ!」
いったいどうなるんだろうと廻は首をコテンと横に倒して考えてみるが、誰も廻の存在には気づいていない。
「はいはい、それはダンジョンに潜ってから考えてやるよ。というかお前、経営者を呼びつけておいて無視するとかずいぶんと態度がでかいんじゃないか?」
「き、貴様ああああぁぁっ!」
なおも噛み付こうとするレインズに嘆息しつつ、アルバスは横目で廻を見る。その視線に気づいた廻は自分の出番だと一歩前に出て声を掛けた。
「あのー、私がジーエフの経営者で三葉廻といいます」
突然足元から声がしたことに驚いたのかレインズはものすごい勢いで下を向く。
そこに立っていた笑顔の女の子を見ると一瞬固まってしまったが、すぐに顔を上げるとアルバスの胸ぐらを掴んでしまう。
「おい、アルバス! 俺は経営者を呼んだんだ、こんなガキを呼んだ覚えはないぞ!」
「ガキねぇ」
「誰がどう見てもガキじゃねえか! 貴様、ふざけるのもいい加減に――」
「ふざけているのは誰でしょうねぇ」
再びの嘆息を漏らすアルバスと怒り心頭の廻の後ろから声が掛かる。その人物を視界に収めたレインズの表情はさらに赤く染まっていく。
「……な、なんでてめえがいやがるんだ、ジギル・グリュッフェル!」
ずっと後ろからやり取りを見ておりレインズ以外の四人は気づいていた。さすがに呆れたのか四人とも顔を手で覆っている。
「最初からいたわよー? それと、あんたがガキといったこの子、本当に経営者様だよ?」
「ふ、ふざけるな! こんなガキが経営者だなんて、聞いたことも見たこともないぞ!」
「あなたが見てきた常識が間違っていたということです。私は正真正銘、ジーエフの経営者ですから。分かったならさっさとアルバスさんから離れてくれませんか? ……目障りですから」
アルバスが胸ぐらを掴まれたことで頭に血が上っていた廻は声音を低くして威嚇すると、レインズは仕方なく手を放し後ろに一歩下がった。
「……問題を起こしに来たのなら帰ってください。それとも、先ほど仰っていたダンジョンへ挑むということであれば歓迎しますよ?」
ニコリと笑った廻にアルバスは違和感を覚えたが口にはしなかった。言っていることに間違いはなく、後で問いただせばいいかと考えたから。
「もちろん、ダンジョンには挑ませていただく。ただし……一つだけ忠告させていただきます」
「まあ、何でしょうか?」
笑みを崩すことなく聞き返すと、レインズの視線は廻から再びアルバスへと向く。
「こいつとの関係は切った方があなたのためです。こいつは、俺たちを見捨てて逃げた臆病者だからな!」
そう吐き捨てるとレインズさっさと歩いていってしまい、追い掛けるようにして残りのメンバーも動き出す。
その中で自己紹介をしようとしていた女性冒険者だけが廻、アルバス、ジギルという順番で頭を下げながら去って行った。
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